「・・・そいつ、ときどきオレんちに来るぞ。」
「本当か!?」
とりあえず、近くのファーストフード店に入って一休み。
3人は小学校が同じで、今でもよく一緒に遊ぶこと、
全員ポップンパーティの参加経験があること、
ヤクザに絡まれる少し前から、ジャックを見ていたこと。
ジャックは3人に、KKを探していることを告げた。
名前だけではわからなかったが、帽子とタバコ、そしてヒゲ・・・というところまで来たとき、
サイバーがジュースをすすりながらそう言ったのだ。
「ホントにそのKKってヤツなのか?」
「だって、ウチ女性客ばっかだろ?男あんまり来ないじゃん。
でもそいつ、1ヶ月に1、2回は顔出すんだよ。んで、いつもヒゲは剃らなくていいって言うんだ。」
「・・・それ、だ。」
ジャックは、自分でもよくわからないが確信した。
隣りに座っていたハヤトが、トレーを持って立ち上がる。
「それじゃあ、早速サイバー先輩の家に行ってみますか!」
「え?今から!?」
「お前の兄ちゃんが、住所とか・・・連絡先知ってるかもしれないだろ。
・・・行くよな?」
リュータの問いかけに、ジャックは大きく頷いた。
都市の中心部から少し外れた住宅街の一角に、サイバーの家はあった。
「・・・美容院・・・」
「そ。オレの兄貴は、ここのカリスマ美容師なんだ。」
自慢そうにいうサイバー。
扉を開けて中に入ると、一仕事終えたらしい青年が、コーヒーのカップを傾けているところだった。
「あれ、お帰りー!そしていらっしゃーい!」
「ただいまー!」
「「お邪魔しますー」」
「・・・・・・。」
見慣れた三人の後ろから出てきた見知らぬ少年に、
青年・・・マコトは首をかしげた。
「その子は?新しい友達?」
「あ、こいつジャックって言うんだ。Mr.KKに会いたいんだって。」
サイバーの説明に、マコトは「へー!」と言いながら、あらためてジャックを見た。
ペコリと頭を軽く下げる少年に笑いかける。
「確かによく来てたけど、ここ2ヶ月ぐらい顔を出さないね。」
「・・・アイツはどこにいる?」
「うーん・・・。
あの人住所不定だし、携帯番号も知らないから、今どこにいるかはちょっと・・・」
カローン。
「ちーっす。ひさしぶり・・・・・・」
「KK!!」
「げっ・・・ジャック・・・」
ドアを開けて顔を出したのは、今まさに話題になっていたKKその人。
自分の名を呼ぶジャックとバッチリ目が合う。
くわえていたタバコがポロリと落ちる。
次の瞬間、帽子を手で押さえると、KKは猛烈な勢いで逃げ出した。
「ッ!!待て!!」
「ちょっ!ケイさん!」
中にいた5人も、ジャックを先頭に、道路に転がり出た。
「悪いなマコト!また今度、寄らせてもらうぜ!!」
もうすでにだいぶ先の方を走っているKKは、振り返りながら叫ぶ。
「うん!待ってるよー!」
「くそッ!!」
ニコニコと手を振るマコトのそばをすり抜け、ジャックは走り出した。
「お、おいジャック!!」
サイバーがあわてて声をかけるが、ジャックの耳には入っていないようだった。
あっという間に2人は角を曲がり、4人の視界から消えてしまった。
「・・・あいつ足速ぇなー・・・」
「っていうか、なんなんでしょうあの2人・・・」
「あのKKってやつ、ジャックに金を借りてるとか?貧乏そうだし・・・」
ほーっと、2人が走っていった先を見つめながらリュータが言う。
ハヤトとサイバーは、2人の関係に首をひねった。
「さて、そろそろパルと母さんのお菓子が出来上がってるだろうから、おやつにするかい?」
マコトの声に、学生3人は「はーい!!」と元気よく返事をした。
(なんであそこにジャックがいるんだァ!?)
家と家とのあいだを縫うように走り抜けながら、KKは心の中で叫んだ。
(チクショー・・・MZDの罠かコレ!?)
その頃の神
「ぎゃははははは!!!おもしれー!!!」
「マンガなんか読んでないで仕事しろーーー!!!」
・・・怒られていた。
(・・・速い・・・)
かなり本気で走っているのに、KKとジャックの差はほとんど縮まらない。
ちょっとでも気を抜けば、すぐに見失ってしまうだろう。
KKは、曲がりくねった路地を、泳ぐ魚のようにスルスルと抜けていく。
ジャックはもう一度舌打ちすると、近くにあったゴミ箱を踏み台に、家の屋根へ飛び上がった。
どのぐらいたっただろう。
(・・・マいたか・・・?)
狭い路地の塀に背中を預け、息を整える。
注意深く、今来た道を振り返るが、そこに人の姿はなかった。
「・・・はぁ〜・・・」
大きく息を吐いて、KKはその場にズルズルと座り込んだ。
目を閉じて、箱から取り出したタバコに火をつける。
「タバコは体に悪いってアッシュが言ってたぞ」
「ッ!!!?」
あわてて目を開けると、撒いたと思っていたた少年が息を整えているところだった。
しばらく見つめ合っていたが、
これ以上の追いかけっこはムダだ、とでも言いたげに、KKは大きくため息をついた。
くわえていたタバコをコンクリートに押し付ける。
火が消えたのを確認すると、上着の内側から携帯灰皿を取り出し、中に放り込んだ。
「・・・なんで逃げたんだ?」
「お前こそ、俺になんか用でもあるのかよ・・・」
立ち上がり、めんどくさそうに自分を見下ろすKKに、ジャックはバツが悪そうにうつむいた。
追っかけては来たものの、用と言える用はないのだ。
「・・・用は、ない」
「どうせそんなこったろうと思ったぜ・・・」
もう一度ため息をつき、KKは帽子をかぶりなおす。
「用がないなら失せな。俺たちは関わらない方がいいって言ったろ?」
「でも、オレはお前を見つけたぞ。」
KKの言い草が気に食わなかったのか、ムスッとした顔で言うジャック。
「お前、エンがあったら会えるって言ったじゃないか。
オレたち、エンがあるんだろ?」
「いや・・・そりゃあるかもしれねーけどよ・・・。それとこれとは話が別だ。」
「・・・なにが別なんだ?」
ボキャブラリーの幅があまり広くないジャックは、きょとんと首をかしげてみせる。
KKはと言えば、なんと説明したらいいかわからなくて、ぼりぼりと頭をかいた。
「あーだからその・・・要するに、お前は俺になにがしたいんだ?」
「・・・・・・。」
今度はジャックが黙る番だった。
「・・・俺たちはお互い、陽の目を浴びるような存在じゃない。
一緒にいると、俺もお前も、望まぬ闘争ってヤツに巻き込まれる可能性大だろ?」
「・・・・・・。」
KKの言葉に、ジャックは小さく頷いた。
「ところがどっこい、俺もお前も、てめェの事情で手一杯。
人のことに構ってられる時間も余裕もないのが現実だ。」
しばらく考えて、もう一度頷く。
「イコール、お互いの身を守るためにも、俺たちは関わらない方がいい。OK?」
今度は、頷かなかった。
しばらく黙っていたが、やがてジャックはゆっくり口を開いた。
「・・・お前の事をもっと知りたいから、そばにいたら駄目か?」
「はぁ!?なんじゃそりゃ!!お前、自分が何言ってんのかわかってるのか?」
「ここに来て間もない頃、アッシュがオレにそう言ったんだ。」
ちょっと聞いたら誤解を呼びそうなその言葉。
壁にそって高速カニ歩きをし、距離をとるKKに、なんでもないように言うジャック。
「・・・オレは、自分でもまだ知らないことがたくさんあると思う。
お前がそれを、教えてくれるような気がする。」
「・・・・・・。」
悪いが俺にソッチの趣味はねぇ・・・とでも言ってやろうかと思ったが、
言っても通じないだろうから、やめた。
自分を見つめる瞳には、純粋な光しかなくて。
少し、罪悪感のようなものを覚えた。
(・・・だからガキってキライなんだよ、俺は・・・)
その気持ちは幻だ、と、KKは思った。
子供は光、大人は闇。そういうものだ。
こういう眼を見ていると、自分がどんなに汚れているか・・・思い知らされる。
だが、ジャックは普通の子供じゃない。
ヤツは闇を闇と教えられずに、今まで生きてきたのだろう。
闇を知らないものに、本当の光は見えない。
だが、その闇にも、光が指す闇と指さない闇がある。
ジャックが自分の闇がどんなものか理解したら、光に手をのばせるだろうか。
俺は、のばせなかったから。
「・・・KK・・・?」
黙ったままのKKに、ジャックは不思議そうに声をかける。
「〜〜〜〜ッあー!!!めんどくせぇ!!!」
いきなり叫んでやれば、ジャックがビクッと体を震わせたのがわかる。
KKはくるりと後ろを向き、少し広い通りへ出た。
あわてて後を追い、ジャックは少し早足で隣を歩く。
「・・・どうなっても知らねぇぞ。」
ぼそり、とつぶやくKK。
「お前の歩幅になんか合わせねぇからな。」
きょとん、とするジャック。
「・・・平日の昼ぐらいまでは、○×株式会社のビルにいる。今月いっぱいだけど。」
言いながら、チラリと横をみてやると、
眼をまんまるにして自分を見つめるジャックと目が合う。
「行ってもいいのか・・・?」
「仕事のジャマするなら容赦なく追い返す。」
「・・・しない!」
いやに真面目な顔をしてそう言うジャックは、だいぶ興奮しているようだった。
KKはもう一度ため息をついた。
「勝手にしろぃ・・・」
がっくり肩を落として歩く清掃員と、うきうきと早足で歩く少年。
アスファルトのヒビから顔を出した花が、そんな2人の背中を見送っていた。
なんか最後シリアスになっちゃいましたな・・・
一貫してギャグというのも、なかなか難しいものです。
学生トリオ+マコトさんは楽しかったですねー!!(笑) リュータとサイバーの違いが難しい・・・
サイバー→ボケ ハヤト→ツッコミ リュータ→マイペース マコト→天然
みたいなイメージで書いてみました。
楽しんでいただけたら幸いですvv
長々とお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!
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