「・・・なぁオイ。」
「ん?なんだよ。」
「どうかしたんですか?」
天然パーマの頭を、明るい金髪に染めた少年が、隣りを歩いていた青髪の少年をつついた。
そのまた隣にいた、2人より年下っぽい少年が首をかしげる。
「・・・あれ・・・ジャックとかいうヤツじゃねー?」
「誰だよソレ・・・」
「ポップンパーティに出てた人・・・ですよね。リュータ先輩の知り合いですか?」
「知り合いっつーか、俺の曲作り手伝ってくれた人が、アイツの曲の副担当になったらしくて・・・」
「なんだかキョロキョロしてんなーアイツ・・・。」
道路を挟んで向かい側の歩道を歩いている白髪の少年。
ときおり足を止め、あちこち見回している。
「なにか探してる見たいですね・・・」
「はぐれたとか?」
「それはサイバー先輩でしょうが。」
「なっ!いいじゃねぇか!ちゃんとこうやって合流できたんだし!!」
さらりとツッこむハヤトに、サイバーは顔を真っ赤にして言った。
そんな二人の会話を聞きつつ、じーっと、ジャックを見ていたリュータが、何かに気づいて口を開く。
「あ、キレーな姉ちゃんにナンパされてる。」
「なにっ!?うらやましいやつめっ!!」
「あ・・・でも軽くシカトですね」
少し距離が開いたので、三人は白髪少年・・・ジャックと同じ方向に歩き出した。
「お、今度は街角アンケート」
「なんか困ってるぞ」
「あ・・・書いてます」
「・・・なんかモメてるぞ?」
「アンケート屋が怒ってる・・・」
「あ・・・ケンカ別れしました。」
はたから見れば、かなり怪しい学生三人組。
一人づつ、ジャックの行動を実況中継している。
少し離れたまま、ジャックを追って三人は歩き続けた。
「って・・・なんでオレたちアイツのストーカーしてるんだよっ!」
20分ほど経ってから、今更のように言うサイバー。
「え・・・だって下手にゲーセンとか行くより、こっちの方が面白そうだし・・・」
「いや、でもそろそろ声かけてあげた方が・・・ホントになにか困ってるみたいですよ?」
「そのきっかけが、なかなか・・・」
「・・・なぁーもう他んとこ行こうぜー?せっかくの休校日なんだしよー」
「お前、正義の味方じゃなかったのかよ・・・」
「そうですよ!サイバー先輩が声かけてきて下さいよ!!」
「今日はヒーローも休みなの。パルだって、家で母さんとお菓子作ってるし。」
「正義に平日とか休日とかあるのか・・・って・・・」
言いかけて、リュータがふと足を止める。
「どうかしましたか?」
「オイ・・・あれ・・・」
他の二人も、リュータの視線の先を追う。
そこには、いかにも一癖ありそうな大人に囲まれているジャックの姿。
「いわゆるヤーさん・・・ですね。」
「アイツら・・・理由もなしに暴力ふってくるから気をつけろって、昨日DTOがいってたヤツらじゃねーの?」
「くっ!!行くぞリュータ!ハヤト!!」
「ちょっ・・・先輩!?」
「今日はヒーローの休みじゃなかったのかー?」
「バッカやろ!!正義の味方に休日なんかあるわけないだろーがっ!!」
「てめェ・・・ずいぶんイカした頭してんなぁ・・・あ?」
「おら、さっさと金出せよ。そしたら、ちったぁ手加減してやるかもなァ。」
相手は5人。
通路の真ん中で囲まれていた。
ジャックは一人一人の顔を見上げながら、わずかに眉をひそめる。
(・・・殺さないように攻撃するには、どうしたらいいんだろう・・・)
はっきり言って、こんなヤツらと関わってる時間はない。
まだ何も手がかりがないのに、もう1時間弱、時間が経ってしまったのだ。
「シカトしてんじゃねーぞゴるァ!!!」
「スカした面ァ変形させっぞ!!」
大柄な男が拳を振り上げる。
(・・・遅い。構えが甘い。)
ジャックは、重心を右足に軽く乗せ、カウンター攻撃の体勢に入る。
と、その時。
「いい人キィーーーーーーーーーック!!!!!」
ドガッ!!!
「ゴフぁ!!!」
突如として真横から繰り出された蹴りに、拳を振り上げたままの姿勢で倒れる男。
「あああ!!よしリンが!!」
「誰だゴるァ!!!」
「天が呼ぶ!地が呼ぶ!!人が呼ぶ!!!悪を倒せとオレを呼ぶッ!!
いい人光線風切れば、そこに悪の立つ地なし!!
正義のヒーロー☆サイバー様たぁオレのことよ!!」
蹴り倒したよしリン(あだ名)の背中に足を乗せ、堂々と名乗りを上げるサイバー。
呆然とその様子を見ていたジャックを、リュータとハヤトが引っ張って後ろに下がらせた。
「なっ・・・!」
「しー!俺はリュータ、こっちはハヤト、あれはサイバー。お前、ジャックだろ?」
いきなり現れたリュータという少年に、いぶかしみながらも頷く。
「話はあとにして・・・とりあえずこっから逃げましょう。」
「・・・・・・。」
「サイバーなら大丈夫だ。一応、正義の味方だし。」
なんだかんだ言って、けっこう頼れるヤツなんだ、と思いながら、リュータはサイバーに視線を送る。
ヤクザに囲まれ、中心に立つ友は、ゆっくりこっちを向いて、言った。
「いい人光線銃・・・・・・家に忘れてきちゃったvvv」
「マジでーーーーーーー!??(゜∇゜;)」
「ほぉ・・・お友達がいたんだねぇ・・・」
「4人まとめてタコ殴り決定だなゴるァ・・・」
ボキボキ、と拳の骨を鳴らし、じりじりと近づいてくる男たち。
サイバーは、なんとか後ろの三人をかばう姿勢だが、顔はどこかの透明人間のようだった。
リュータはリュータで、冷や汗とサイバーへの怒りで青くなっている。
「サイバー・・・誰が正義の味方だって・・・?」
「ゴメ・・・;;」
サイバーが後ろに顔を向けて、リュータに謝ろうとしたと同時に、男の一人が腕を振り上げた。
「オラァ!!!」
ばしっ。
うなりをあげて振り下ろされた拳を手のひらで受け止め、ジャックは相手をにらみつけた。
「やめろ。」
「・・・あ・・・あァ!?ふざけんなてめェ!!」
「なめたマネしてんじゃねェぞゴるァ!!」
横から来た蹴りを、前方の男の拳を掴んだまま、ジャンプしてよける。
宙を蹴った足を空いている手で掴み、素早く、つま先でわき腹に一撃お見舞いしてやる。
「げはっ・・・!!」
わき腹を抱えて、男が倒れこんだ。
「なっ・・・!!」
それを見て、残り3人も言葉を失う。
ジャックは男の拳を握ったままの手に、力をいれる。
「いてッ・・・いてててっ!!は、離せガキ!!」
「攻撃をやめろ。」
「ざけんなッ!オイっ!見てないでなんとかしろよ!!」
男の声に、ジャックは仲間の方に視線を向ける。
燃えるような瞳に見据えられ、2人はしばらく立ちつくしていたが、ゆっくり回れ右をすると、
きびすを返したように走り出した。
「お、おい!!畜生、離せ!!はな・・・離してください・・・」
男が屈服したのを確認すると、ジャックは手を離した。
「くそガキめ!!覚えてろよ!!」
お決まりの捨てゼリフを残し、ジャックに握られて赤くなった手をかばいながら、男は逃げていった。
「・・・すごい、ですね・・・」
学生トリオはというと・・・。
道路に、ぼんやり立っていた。
背を向けていたジャックが、ゆっくりとこっちに体を向ける。
奇妙な沈黙が流れた。
「と、とりあえず・・・お茶でもどう?」
リュータの提案に、ジャックは少し考えたが、こくんと頷いた。
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