俺が家に帰ると、
ベッドの上に置きっぱなしの携帯が待っていたように震えだした。
このタイミングで電話を鳴らせることが出来るのは、あまり考えたくないが・・・一人。
ため息をついて、ベッドに倒れこむ。
弾みで宙を舞った携帯を左手で掴み、通信ボタンを押した。
「・・・・・・もしもし?」
「アンタか・・・」
「あーいや、多分連絡してくるだろうと思ってたからよ。」
「ああ。」
「・・・で?俺になにをさせる気なんだ?」
「そりゃあ関わりたくないに決まってるだろうが!!」
「・・・そんなんじゃねぇよ・・・ただ・・・」
「うっせぇ!切るぞ!!」
「ったくよー・・・。大体、神のクセに電話使うなよなー・・・テレパシーとか使えねーの?」
「あーあー聞き飽きたよそのセリフ。わかったわかった。」
「・・・わかったよ。ただし!俺は責任とらねぇからな!全部アンタが取れよ!」
「ああ・・・。じゃ、俺寝るから・・・」
ピッ。
通話が切れたことを告げる電子音を確認すると、
俺はもう一度ため息をついた。
街へ・・・
「知らない人についていっちゃダメっすよ!?」
こくり。
「お菓子あげるとか、お父さんが入院したからとか、いろいろな手口使ってくるっスからね!」
こくり。
「食べ物が落ちてても、拾って食べたりなんかしちゃダメっス!」
こくり。
「横断歩道では右左見てわたるんスよ!?」
こくり。
「ネー・・・まだ終わらないのん?」
「私に聞くな。」
場所は、とある放送局の裏口。
今日も今日とて、仕事に来たDeuilだったが、
一緒について来たジャックが一人で街に出ると言い出し、今に至る。
ダメとは言われなかったが、アッシュが注意事項をならべ始めて15分。
さすがにスマイルとユーリも呆れ顔だ。
「アッスくんの心配性は筋金入りだねェ・・・ヒッヒッヒ☆」
「おせっかいもここまで来ると本物だな・・・」
「んでサー、ユーリはどう思う?」
「・・・なんのことだ。」
「あの掃除屋サンのことだヨ。」
壁にもたれて会話する声は、アッシュとジャックには届かない。
うつむいていたユーリは、腕を組み直して、前方を真っ直ぐに見据えた。
「危険な男だ。抱える影が大きい。」
単刀直入なユーリの言葉に、スマイルは口元を笑う形にした。
「ジャッくんと関わらせちゃっていいの?」
「さぁな」
アッサリ言い放つユーリに、思わずスマイルはズルッとすべってしまった。
壁に手を付いて、何とか姿勢を保つ。
「キミって、案外無責任だよネ・・・」
「お前よりはマシだ。」
「うわ、ヒドー!ってその通りだけどサー。」
「誰と関わるか関わらないかなど、そいつの勝手だろう。他人が干渉することじゃない。」
「・・・無責任じゃなくて無関係だって言いたいのん?」
少しだけ、非難するような言い方。
ユーリの瞳が自分を捕らえるのを、スマイルは感じた。
「ボクも、彼は危険だと思うヨ。」
「・・・・・・。」
「でも、彼はジャッくんに欠けてるモノで、ボクたちじゃおぎなえないモノを持ってる。」
「・・・分かってるなら、わざわざ私に聞くな。」
「だって素直じゃないんだもン。無関係〜なんて思ってないくせに・・・ね。
からかいたくなるじゃん?」
そう言って、はじめてこっちを向いて笑って見せるスマイルを、ユーリはにらみつける。
「性格ブスが・・・」
「キミよりマシだよーv」
「はい、お財布!何かあったらこのお金で電話するっスよ?」
こくり。
「それから交通安全のお守りを・・・」
「いい加減にしろアッシュ・・・(怒)」
「うぁッ!!ユ、ユーリ!?なんで怒ってるっスか!?」
「お前がダラダラしているからだ!この馬鹿犬が!!」
「な、なんでそんな機嫌悪いんスか!?スマ!なにかやったんスか!?」
「さーあネー。」
額に怒りの十字路が出ているユーリに、アッシュはあわあわとスマイルの方に視線を向けるが、
当の本人は、我関せず・・・とでも言うように、わざとらしく目をそらす。
頭からプンスカ煙を吹きながら歩くユーリに、ズルズルと引きづられていくアッシュを
「前もこうだったな・・・」などと思いつつ、ジャックはぼんやり見送った。
とりあえず、街に出てみたが・・・。
さすが、メルヘン王国でも5本の指に入るほどの大都市。
人が多い。
この中から、住所も本名も働いてる場所もわからない人間を探し出すのは、
難しいというレベルじゃないだろう。
(アイツについて、オレが持ってる手がかりは・・・)
?ヒゲ
?タバコ(本人もタバコくさい)
?ユーリよりでかくてアッシュより小さい
?帽子
?たしか掃除屋
KKの印象を一つ一つ頭に浮かべてみるが、どれもコレといった手がかりにはならない。
(・・・どうしよう・・・)
『道に迷ったときは、おまわりさんに聞くんスよ?』
以前アッシュに言われた言葉が頭に浮かぶ。
(人を探してるときも、オマワリサンに聞けばわかるのか・・・?)
今のジャックの頭の中の方程式・・・・・・オマワリサン=なんでも教えてくれる人
(・・・オマワリサンを探そう。)
よし、と意気込んで歩き出したが、2、3歩歩いてまた立ち止まる。
(・・・どこにいるんだ?オマワリサンって・・・)
またもや途方に暮れるジャックだった。
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