やべェ。


ザッと頭から血の気が引いていくのが分かる。
自分の腰ほどまでしかないガキは、その小さな体に似合わない強烈な殺気を放っていた。

ナイフを握って、目の色が変わってやがる・・・。


あれは人を殺せる眼だ。




ナイフを奪うには、気づくのが遅すぎた。

男は体ごと、ジャックにぶつかっていった。
手元が狂い、素早く放ったナイフは追手の頭のすぐ横に刺さる。


「手ェ出すなって言っただろうが!!」


きょとん、と、こっちを向くその顔には、さっきまでの異様な殺気はかけらもない。


(なんてこった・・・無意識で、あれだけ・・・)


一瞬息を呑むが、敵は待ってくれない。
今の攻撃で、あっちは自分とコイツが仲間だとカンペキに認識しただろう。
この人数じゃ分が悪い。
逃げるが勝ち。

男は腰のホルダーから親指大の弾を取り出し、自分の銃にセットした。
すぐさま、奥のガラスに向けて放つ。





ガシャアァァン!!





「しっかり掴まってろよ!!!」


どうしたらいいかわからなくて、座り込んでいると、男の腕に引き上げられて立たされた。
そのまま腰をつかまれ、抱えあげられる。
走り出す男。
窓ガラスに空けられた大きな穴が迫ってくる。


「・・・ちょっ!!なにをする!!」
「黙ってろ!!」


男は、ジャックを抱えたまま隣のビルへ飛び移った。














































「・・・・・・お前・・・誰だ・・・・・・?」


なんとか追手を撒き、二人は使われていない廃ビルの一室に身を潜めている。
男との距離は3メートル。なにがあっても対処できる位置だったが、
ジャックは落ち着かなかった。

この男には関係ない気がした。




「俺か?・・・俺の名は、北風寒太郎。」
「ウソつけ」


言い終わるか終わらないうちに、ジャックはぴしゃりと言い放った。
以外に冗談通じねぇなぁ、と、男はカラカラ笑う。
相変わらず疑いの視線を向けるジャックに、男は笑顔を崩さない。


「そぉいうお前は誰なんだよ。
 人に名前を聞く時は、自分から名乗るってのがスジだろ?」

「・・・ジャック。」

「ジャック・・・。そう、ジャックだ!思い出したぞ。お前、この前のポップンパーティに出てただろ?」


ポン、と手を叩いて言う男に、ジャックも、ああそうかと思った。
どおりでどこかで見た事があると思ったのだ。


「お前確か・・・猫を探していたな・・・」
「そうそれ。覚えてたか。
 ・・・俺はMr.KK。よろしくな、ジャック。」


握手をしようと近づいてくるKKに、ジャックは、さっと立ち上がって距離を開ける。


「オイオイ・・・俺は敵じゃないぞ?そんなに警戒するなよ。」
「名前も名乗れないようなヤツを信用できるか。」
「名乗ったじゃねーか。」
「偽名だろう」


ふぅ、と肩を落とすKK。


「・・・お前の名前だって似たようなモンだろ。」


「・・・・・・。」
「だから、そんなんどうだっていいだろ?ほら握手!!」


無理やり手をとって握られる。


「仲良くやろうぜ、ジャック。」
「・・・お前は何者だ。」


ニコニコと握手をしていたが、その一言でKKの眉間にシワがよる。


「ったく・・・取り付くシマもねぇな・・・」
「質問に答えろ」
「ただの掃除屋さ。掃除以外もやるけどな。」


くるりとジャックに背を向け、窓際まで歩いていくKK。
ポケットからタバコを出して火をつける。
ジャックも壁にもたれて座った。






「確か・・・Deuilのトコにいるんだったな。仕事についてきてたのか?」


ジャックが小さく頷いたのを確認し、KKはため息と一緒に煙を吐き出す。


「その・・・悪かったな、巻き込んじまってよ。
 あの、アッシュだったか?あいつ怒ってるだろうな・・・
 俺、殺されるかも。」
「・・・・・・。」


男の言うとおりだ。もうとっくに日付は変わっている。
あの部屋の状態で自分がいないとすれば、アッシュは死ぬほど心配しているだろう。




(早く、帰りたい・・・)




眼を伏せ、そう思った。


「まぁ心配すんな。明るくなったら送ってく。」


心を読まれたかのようなKKの言葉に、ジャックは顔を上げた。
相変わらず外を見て、何本目かわからないタバコをふかしている男が視界に入る。

ふと、スタジオでの場面がよみがえった。





「・・・なぜだ・・・?」





ポツリ、とつぶやくような声に、KKは振り返った。
暗闇でもわかる、炎のような瞳が、静かに自分を見据えている。


「なぜ・・・邪魔をした・・・?」
「・・・ああ・・・ナイフのことか?」


まだ半分ほど残っているタバコをつま先でもみ消し、前髪をかきあげて帽子をかぶりなおす。


「そりゃお前・・・」






















爆音。














「・・・なっ・・・!!」


前方横の壁がガラガラと崩れていく。ほこりと爆煙で視界がきかない。
KKはとっさに反対方向へ転がった。大きなダメージはない。


「くっそ・・・バレてたか・・・!ジャック!どこだっ!?」


煙の間から、腹にバズーカを抱えたヘリが見える。
運転席から銃を握った手が伸ばされた。自分には向けられていない。
この状況で、自分以外でヤツらに銃口を向けられるのは・・・


「ジャック!!」



KKが銃を構えて撃ったのと、ヘリから伸ばされた銃口が火を吹いたのはほとんど同時だった。



















後編へ続く。

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