「・・・・・・ケイさん?」
青年が、不思議そうにこちらを見ているのがわかる。
「だいじょうぶ?なんだかボーっとしてるけど・・・」
とりとめのない世間話、マコトの家族のこと、KKが昼間勤めているビルで起きた出来事。
おしゃべりが好きではないKKだったが、マコトと話していると、次から次へと言葉が溢れてきた。
しゃべり上手で聞き上手。客とのコミニュケーションも、さぞやうまくやっていることだろう。
しかも、それがわざとではなく、マコトの天性のようなものだというのが・・・なんとなくわかる。
器用で、優しくて、人に好かれて、なにより彼自身が人を好きで・・・
ああ、お前は俺と対極の位置にいる。
話せば話すほど、その事実がKKの心を締め付けた。
いつまでこの会話を続ける気だ?と、頭のどこかで声がする。
自分のポケットにはまだ銃が入っていて、その銃はほんの数十分前に血を吸っていて・・・
早く家に帰って後片付けをしなければならないのに。
いつまで‘ケイさん’でいるつもりだ?
表面だけの馴れ合いがそんなに楽しいか?
自分がどういう人間か・・・忘れたわけじゃないだろう?
延々とささやきかけてくる声は、常に嘲笑と蔑みを含んでいて。
それを押し隠すように・・・ただ、眼をそらして黙っていた。
「ケイさん、具合悪いの?」
心配そうな顔と声も、いやみのように感じる自分がいる。
「いや・・・大丈夫だ。・・・帰る。」
ゆっくりと腰を持ち上げ、KKはドアへ向かった。
雨はまだ、さきほどと変わらぬ強さで降っている。
まるで、お前は許されない存在だ・・・とでも言いたげに。
(心配しなくても、許されたいなんて思ってねぇよ。)
そのまま出て行こうとするKKを、マコトはあわててひきとめた。
「今日は泊まっていきなよ、こんな雨の中・・・」
「・・・マコト」
振り返り・・・初めて青年の名を呼ぶ。
「これからは・・・見たことがあってもなくても、俺みたいなヤツを拾うなよ。」
「・・・え?」
「世の中にゃ、お前のような人間と相容れない位置にいる人間が、たくさんいるんだからな。」
「・・・ケイさん・・・?」
いきなり雰囲気が変わったKKに、マコトは不安そうな表情を浮かべる。
「世話になった。ありがとよ。」
ガチャ、とドアを開けるKK。
が、すぐにバタンと閉められる。
マコトがドアを押したのだ。
「言い逃げは・・・あんまよくないんじゃない?」
「は・・・?」
ニコニコ笑いながら言うマコト。
全く予想してなかった行動に、KKは思わず変な声を出してしまう。
「なんだかワケありだなーっていうのは、最初見たときに思ったよ。」
KKがなにか言い出す前に、マコトは言葉をつむいだ。
「これでも客商売だからね。接する人によるけど、おおまかな人の気分はわかるつもりだよ。
ケイさんは・・・すごく苦しそうだった。」
「・・・・・・。」
「だから、少しでも休んでいってもらえればいいな、って思って・・・コーヒーいれたんだ。」
雨音が響く部屋の中。
こんなふうに誰かと向き合って話をするなんて、一体何ヶ月ぶりだろう。
KKはぼんやりそんなことを考えながら、マコトの言葉を聞いていた。
「他の人が、ケイさんのことをなんて言ってるか知らないけど、
おれはケイさんのこと、いい人だなって思うよ。」
「・・・ありがとよ。」
「ケイさん!!」
軽く返事をしてみれば、責めるように名前を呼ばれて。
「客商売してるならわかるだろ?
人の事情や考え方に干渉しないほうがいいってことぐらい。」
「・・・・・・。」
ため息まじりで答えてやる。
傷つくかと思いきや、同じようにため息をつくマコト。
「なかなか強情だね。・・・っていうか、いい根性してる。」
「・・・お互い様だろ?」
眼が合う。
きまずい雰囲気になるかと思ったのに、相手はむしろそれを逆手にとって。
一本取られたような気がして、こちらからも言ってみれば、
なぜか笑いがこみ上げてきて。
「くすくす・・・ケイさんと話してると飽きないや。」
「ククッ・・・。そっちこそ、ただの軟弱男かと思ってたが、けっこう肝が据わってそうだ。」
「軟弱男って・・・ヒドイや。ケイさんだって無精ヒゲのくせに。今度剃ってあげようか?」
「遠慮するぜ。ヒゲ以外も剃られちまいそうだ。」
「お望みとあらば。てっぺんまで剃ってあげるよ。」
「ははっ!カンベンしてくれ!」
ひとしきり笑った後、KKは再びドアに手をかけた。
マコトは玄関に立てかけてあった傘を差し出す。
「・・・いらねぇ。濡れて帰る。」
「持って行きなよ。そんで、ちゃんと返しに来て。」
最初にKKに話しかけた時のように、マコトは柔らかく笑った。
KKはためらったが、無理やり握らされる。
「物好きだな・・・お前も。」
「ケイさんはいい人だもの。」
「なにを根拠に・・・」
「ポップンパーティーに参加してたから。あの神さまが選んだなら、きっといい人だよ。」
あの、というところに微妙なアクセントをつけ、また笑う。
例の神様は変な人徳があり、なんだかんだで好かれているのだ。
「それはどうかねぇ・・・。」
苦笑いを浮かべ、外に出る。
傘を広げてみると、けっこう大きくて、これならあまり濡れずにすみそうだった。
「じゃ・・・俺はこれで。」
「うん。気をつけて。」
短い挨拶を済ませると、KKは歩き出した。
マコトも店に入り、ドアに鍵をかけ、消灯する。
店からは、何事もなかったかのように、非常灯の光がこぼれていた。
相変わらずの、どしゃぶりの雨。
借りた傘がそれをはじいて、バラバラと音をたてる。
いつのまにか、頭の中の声は止んでいて。
許されることなんて望んじゃいない。
覚悟の上だ。
でもどこか、いつもどこか、なにかが足りない気がした。
救われたいと・・・願っているのかすらわからなくて。
いつからか、大事なものが抜け落ちた真っ黒な穴は、悲鳴をあげて・・・泣き止まなくて。
今また一つ増えた罪を責めるように、どしゃぶりの雨が降る。
そんな中、歩く自分を悼むように、傘が雨を弾く音が。
ただ・・・じんわりと染み込んでいく。
と、いうわけで・・・出会い編でした。
ジャックが出てこない話は初めてですねぇ。登場人物が2人だけってのも初めてかも。
マコトさんは・・・天然のはずなのに、どこか黒くなってしまいました・・・
基本は天然、隠れ黒ってことで。
KKとマコトって、巷じゃどっちが右でどっちが左なんでしょうかね?(爆死)
いやはやいやはや・・・。
雨が降ってたので、雨っぽい話が書きたいなーと思ったんですよ。
雨といえば雨宿り、雨宿りといえば店の軒下・・・ってカンジで。
この時点では、KKはだいぶスレてる感じですね。
マコトさんとKKは親友です。
支離滅裂なあとがきだな・・・(汗)
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