「ついてねぇな…。」





















突然の、どしゃぶりの雨。

太陽はとっくに沈んで、真っ暗な空から大粒の雨粒が、とめどなく落ちてくる。
ついさっき、大きな水たまりに足をつっこんで、靴の中まで水浸しだった。
足を踏み出すたび、ぐじゅぐじゅと濡れた音がする。

風はなく、バケツをひっくり返したように…ただただ降り続ける雨。









まるで、今また一つ増えた自分の罪を責めるように。






































                                               
Shout in the Rain




































KKは、濡れて顔に張り付く髪をうっとおしそうにかきあげながら、ライターを取り出した。
が、すぐに役に立たないことに気づき、ポケットに押し込む。


「傘なんか持ってねぇっつーの・・・」


しばらく歩いて行くと、薄明かりがこぼれる店があった。
ひさしが大きかったので、そこに座りこみ、濡れた顔をなでる。
店の明かりは非常灯らしく、中に人の気配は無かった。


(ちょっと休ませてもらうぜ・・・。)


心の中で断り、ライターとふやけたタバコの箱を取り出す。





「よく降りますねぇ・・・」
「ッ!?」



突然、上から降ってきた声に、あわてて振り返る。
テンガロハットをかぶった青年が、ドアから顔を出し、ニコニコと自分を見下ろしていた。


「雨宿りですか?」


柔らかな声に、まぁ、と生返事を返す。
どこか聞き覚えのある声だった。


「そこ、寒くないですか?」
「あ、いや・・・」
「良かったら中でコーヒーでもどうです?」
「いや、おかまいなく・・・」
「中は禁煙なんで、タバコは消して入ってきて下さいね。」


一方的にそう言って、青年は店の中に引っ込んだ。




(こりゃあ・・・拒否権ナシってやつか?)




しばらく考えたが、特に断る理由もないので、タバコの火を消し、ドアを開けて中に入る。
さっきの青年がつけたのか、店の中は非常灯ではなく、明るい照明に包まれていた。
鏡と、向かい合うように置いてある椅子が目に入る。


「床屋か・・・。」
「美容院です。」


いつのまに横に来たのか、ぼんやりつぶやいたKKに、素早くツっこむ青年。
KKはゆっくり横を見て青年と目を合わせ、ふたたびそらす。



(気配が全然感じられねぇ・・・!)



大粒の汗を頭の後ろにかきながら、KKは心の中でつぶやいた。


「はい、タオル。」
「あ、ああ・・・。」



思いっきり動揺しているKKの心中にはお構いなしに、青年はふかふかのタオルを差し出してくる。
KKがそれを受け取ったのを確認すると、
今度は奥の部屋からコーヒーカップを2つ、片手で持って出てきた。
もう片方の手には、湯気をたてているコーヒーがたっぷり入ったポット。
うながされるまま、待合いの椅子に座らせられた。



「なぁ・・・親切にしてくれるのはありがたいんだが、
その・・・いつも見ず知らずの他人にこんなことしてるのか?」


慣れた手つきでコーヒーを注ぐ青年に、おずおずと話しかける。


「まさか。 見ず知らずじゃないから、コーヒー淹れてるんですよ?」


ニコニコと話す青年。
驚いたKKは、あわてて記憶の糸をたどってみるが、覚えてる限りでは青年と会った記憶はない。
・・・ただ、声だけは、どこかで聞いたことがあるような気がして。


「覚えてませんか?
 まあ、おれも貴方の名前覚えてないんで、人のこと言えないんですけど・・・。」


「悪ぃ…全然思いだせねぇ。」


KKはバツが悪そうに、ボリボリと頭をかいた。


「それじゃあ、あらためまして・・・。
 おれはマコト。自分で言うのもなんだけど、ここのカリスマ美容師やってます。
 貴方と、 同じポップンパーティーに出席してました。」


ペコリと頭を下げ、柔らかな調子を崩さず話すマコトに、KKの頭の上にぺかっと電球が光る。


「ああ!どうりで聞いたことがある声だと思ったんだよ!
 あの〜あれだ、Deuilのドラマーの曲歌ってたヤツだな?」
「うん。それ。」
「・・・あー・・・俺はKK。Mr.KKだ。」



偽名を使おうかとも思ったが、 ポップンパーティーの参加者なら、隠していてもバレる確率のほうが高い。
KKは素直に名乗った。


「KKさんですかぁ。なんていうか・・・呼びにくい名前ですねぇ。」



ニコニコ笑いながら言うマコトに、ほっとけ!と軽く返す。







(どうせ呼ぶ人間なんかいない。)







そのつぶやきが、口をついて出ることはなかった。


「じゃあ、ケイさんって呼んでいいですか?」
「ああ・・・好きにしろよ。」







                                         俺とお前は住む世界が違うんだ。








「ケイさんっていくつなんですか?割に若いんじゃないですか?」
「割にってなんだよ割にって…」










                                       お前に俺を理解することなんてできないだろう?











「いやぁ、もし同い年ぐらいだったら、敬語使わなくてもいいかなーって。」
「んじゃあ、お前いくつなんだよ。」











                                       だから









「えっと、今年で25です。」
「んじゃ、敬語ナシでいいぜ。」
「えぇっ!?ケイさん25才なの?!」
「何才だと思ってたんだよ・・・」
「え・・・ハタチぐらいにも見えますし、35才ぐらいにも見えますね。」
「それ褒めてんのか?けなしてんのか?」
「えーっと・・・。あ、結局何才なんですか?」
「秘密。敬語はいらねぇから。」
「それじゃあ遠慮なく。」


































                                        ・・・そんな眼で俺を見るんじゃねぇ。








































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