(・・・あんのクソ透明人間・・・。
元に戻ったら、カレーと一緒にじっくりコトコト煮こんでやるっス・・・・・・!!!!)
場所は変わって城の裏手。
アッシュを抱えたまま、ジャックはあちこち見回し、隠れる場所を探している。
どうやら獣化した自分は、かなり大事に思われてるらしい。
(元に戻ったら、なんて言えばいいんスかねぇ・・・
それもこれもスマイルが・・・!!)
ため息をついたりムカついたり、なかなか忙しいアッシュ。
そうこうしているうちに、ジャックは一つの場所に座り込んだ。
枯れて乾いた、大きな木の根元の洞の中である。
「・・・怖がらなくていいぞ。」
相変わらず困ったような顔をしている犬を、地面に下ろして頭をなでてやる。
なにか言いたげに、くぅん・・・と鼻をならすので、
「オレが城にいないとわかったら、アッシュはきっと探しに来る。
ここで待っていて、お前を置いてもらうように頼むから。」
と、説明してやった。
ユーリがアッシュより早く帰ってきても、この方法なら大丈夫。
アッシュはきっと、犬のことをユーリに頼んでくれるだろう。
半分自分に言い聞かせるようにしながら、ジャックはそう結論づけた。
朝から何も食べてなくて腹の虫が鳴くけど、そんなに長くかからないだろうし。
それに・・・。
「・・・お前の飼い主は、優しかったのか?」
どうしようどうしようと考えていたアッシュは、自分に向けられた質問に顔を上げた。
「・・・オレは、飼い主を捨ててきた。」
(・・・・・・・・・。)
「飼い主を捨てても、飼い主に捨てられても、独りになることに変わりはない。」
頭をなでていた手が、今は止まっている。
いつも真っ直ぐに自分を見つめていた目が、今は伏せられている。
アッシュは、自分が獣になっていることも忘れ、ジャックの方へ歩み寄った。
犬が、初めて自分から近寄ってきた。
ジャックは手を伸ばして、自分よりずいぶん小さなその体を抱き寄せる。
「・・・お前を、独りにはしない。」
「独り」がどんなことか、自分は知っているから。
あんな辛い思いは、もう二度としたくないから。
「オレは・・・お前と違ってマトモな生き物じゃないけど、・・・お前と一緒にいたい。」
・・・・・・何も、言葉が浮かんでこなかった。
彼がユーリ城に来て、まだそんなに時間はたってないけれど、
こんな顔をするのは初めてだ。
優しくて、辛い辛い、顔。
(・・・・・・・・・。)
その小さな体は、ここじゃない場所で、一体どれほどの孤独と悲しみを経験したんだろう。
まともにそんな体験をすれば狂ってしまうから、感情は生まれなかった。
この子を守るために、この子の中にある感情は、身を引いていたのだ。
ああ。
俺は。
俺はこの子のために何ができる?
「・・・おい」
どのくらいたったのだろう。
いつの間にか、二人は洞の中で眠ってしまったようだった。
目を開けると、明るい木漏れ日を背に、誰かがこっちを見ているのが分かる。
「・・・ん・・・。」
犬を抱いたまま、ジャックは強い光に目をこすった。
「・・・何をしている?こんなところで。」
少し不機嫌そうな、よく通るテノール。
その声の主が誰なのか、二人が気づくのに時間はかからなかった。
「ッ!!?」
がばっと身を起こすと、声の主・・・ユーリの小さなため息が聞こえた。
自分にかかっていた影が、スッと消える。
出て来い、という意味だろう。
「・・・・・・・・・。」
大人しく出て行くと、腕を組んだユーリがそこにいた。
「何をしていた?」
静かな声だったが、それはよく響いてジャックの鼓膜を刺激する。
「・・・・・・。」
黙っていると、また、ため息をついたのがわかる。
なんて言おう。アッシュはどうしたんだろう。
ジャックは考えをめぐらせ、ユーリがこちらに手を伸ばしたのにも気がつかなかった。
ひょい。
「ッあ!!」
ジャック腕の中にいたアッシュの首を掴み、持ち上げて目線を合わせる。
「なぜ早く人に戻らない?」
(戻れねェんスよー!すまねェっスけど、手、かして欲しいッス・・・。)
「世話のかかるヤツだな・・・。」
いきなり犬に話しかけるユーリに、ジャックは混乱した。
人?戻る?
だってそれはこの城に迷い込んだ犬じゃ・・・
ぼそぼそ、とユーリが何かつぶやくと、犬からボフン!!!と煙が出て、
ジャックの視界を白く染める。
「・・・・・・??」
「・・・はぁ〜!やっと元の姿に戻れたっスよー!!」
「いいから早く食事の用意をしろ。バカ犬が。」
「?犬じゃねぇっス!!狼っスよ!!」
そこにいて、ユーリと口論しているのは、朝から探しても探しても見つからなかった狼男。
・・・狼、男・・・?
待て。
だって、あれはどう見ても犬だった。
「あのー・・・ジャック?」
考え込んでしまっているジャックの顔の前で、ひらひらと手を振ってみる。
は!と、我に帰ったらしく、こっちを見上げてくる少年。
「・・・アッシュ・・・なのか・・・?・・・あれが?」
「・・・すみません・・・;;」
困ったように笑って、少し首をかしげるその様子は、確かにあの犬そのものだった。
・・・ということは。
自分はとんでもない勘違いをしていた・・・ということで。
「あの、ホントすまねぇっス!なかなか言うタイミングがつかめなくて・・・」
恥ずかしいのだろう、顔を赤らめているジャックに、アッシュは何度も頭を下げた。
「おい、いいから食事の用意をしろ。
その様子からすると、朝食もとっていないだろう。」
ユーリの声が終わるか終わらないうちに、二人の腹の虫が一緒に鳴いた。
「「・・・あ。」」
「・・・先に戻っているぞ」
そう言って羽を広げるユーリの顔は、すこしだけ、ほんの少しだけ緩んでいた。
アッシュはぼんやりと、ユーリに笑われた・・・と思いながら、その姿を見送った。
「・・・戻るっスか?」
アッシュの問いに少しだけうなずくと、ジャックは先に歩き出した。
その背中に、アッシュは微笑みかける。
(・・・・・・オレも、ジャックのこと、独りになんかしないっスからね。)
城に戻ったとたん、
「お腹すいたヨー!アッスくーんvvv」
と、走りよってきたスマイルに、アッシュ渾身の右ストレートが決まったのは、言うまでもない。
と、いうわけで。2本目です。
相変わらず文章がアレですが・・・
なんつーか・・・
Deuil+ジャックのつもりだったのが、ジャック+Deuilになってきてるような・・・。
個人的には、ユーリさんが出てきたあたりが書いてて楽しかったです。
気を抜くとアシュジャになりそうでハラハラしました;;
あくまで親子感覚ですから!!
親子・・・かなぁ・・・。仲間・・・?
微妙。
読んでくださった方、ホントにホントにありがとうございましたvv
感想などよせてもらえると嬉しいです!
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