ボクより先に キミを死なせはしないから
ナミダ
「・・・あー・・・」
窓から漏れる朝の日差しに目を細め、顔に左手をかざして影を作る。
小鳥のさえずり。
木々のざわめき。
ドアから漂ってくる、朝ごはんのいいにおい。
ここのところ晴れの日が続き、今日も外はいい天気のようだった。
ただ、胸が苦しいだけで。
それ以外は、いつもとなにも変わらない自分の部屋。
ひたひたと小さな足音が近づいてくる。
スマイルは軽く伸びをして、上半身を起こした。
「スマイル、もうすぐ朝食できるから・・・・・・起きてたのか。」
ドアの隙間から顔を出し、珍しそうに言う少年。
まぁネ・・・。とあくびまじりの声で返す。
いつもなら、寝たフリして脅かしてやったり、透明になって後ろからつついてみたりするんだが、
気分が乗らなかった。
(ま、乗るわけないけどサ)
もう一つあくびをして、部屋に入ってきたジャックの前を横切り、タンスの引き出しに手をかける。
「・・・スマイル」
怪訝そうな声。
わかってるよ。言われなくても。
でも、しょうがないじゃん?
「なんで顔が濡れているんだ?」
勝手に出てくるんだもの。
「ああ、コレ?・・・ナミダだよ。あくびのしすぎ♪」
「・・・・・・。」
ニッコリと笑顔を向けてやるが、ジャックは困ったように視線を泳がせている。
(・・・変なところでカンがいいんだから。まいっちゃうよホント。)
ごまかす自信はある。
着替えたシャツの袖で目元をぬぐい、スマイルは部屋をあとにした。
ついてないコトに、今日は全員オフの日。
リビングに入ると、新聞を読んでいた吸血鬼がチラリと視線を送ってくる。
いつもの様に笑い返し、横を通り過ぎた。
2、3歩歩いて振り返ってみると、まだこっちを見ている。
少しだけ目を細め、口元を締めるのは彼の癖。
・・・他人のコトに思いを巡らせる時の、彼の癖。
「あ、おはようっス!今日は早いっスねぇ。」
「たーまにーはネー。」
綺麗に拭いたテーブルに皿を並べながら、声をかける狼男。
軽い口調で返事をし、椅子を引いて席に着く。
目の端で見上げると、揺れる深緑の髪の間から赤い瞳がのぞく。
その色は、かすかに疑問をにじませて。
(・・・まいっちゃうよ、ホント。)
「んー?どうかした〜?」
「いえ、なんでもないっスよ。」
いつもの口調といつもの顔。
笑顔でたずねれば、笑顔で返してきて。
スマイルは、ますます笑顔の色を顔に乗せ、
少し首をかしげてお茶を淹れに行くアッシュを見送った。
ほら、何も変わらない日常。
みんなと目を合わせられないボク以外は、何も変わらない。
大丈夫、いつもと同じだよ。
だから
「ジャッくんー?いつまで隠れてるのサー。」
リビングの扉の影に隠れ、自分の様子をうかがうジャックに声をかける。
アッシュと同じように首をかしげ、しぶしぶといった感じで出てきた。
いつもと同じ、朝食。
・・・いつだったか、朝食だけでも一緒に食べれないかってアッスくんが言って。
いつからか、忙しくても朝だけはなんとか時間を合わせて。
いつからか、キミがいない現実に、ボクは慣れた。
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