少年の言葉に、スマイルは心の中でため息をついた。


(当たって欲しくない予感って、結構当たっちゃうもんだネ・・・。)













少年の体からは、戦争のにおいがしていた。

それを感じた時から、こういう展開になってくることは想像がついていたが、
どうやらそれは、今のところ考えられる最悪の推測が、正解を指しているようだ。



「・・・んで。」


少年が質問の答えを言い終わり、一息ついたところで、スマイルはもう一度口を開いた。


「この世界に何の用?誰かを殺しに来たのン?
 MZDの話からすると、キミをどこからか逃がして、ここに連れてきたみたいだケド。」


スマイルの言葉に、少年の瞳がわずかに見開かれる。
人形のように色がなかった顔に、はじめて表情らしきものが浮かんだ。
まるでプラスチックのような熱のない瞳に、なにかが揺らいだのを、スマイルは見逃さなかった。


「・・・・・・。」


少年はスマイルから眼をそむけ、口をつぐむ。


「どこから逃げてきたの?」
「・・・。」


再度質問するが、少年は答えなかった。
スマイルは肩をすくめ、隣りに座るユーリを見た。




「・・・食事は席について食べろ。」




ユーリは閉じていた眼を開き、椅子に背を預け・・・言った。
少年は少しだけ顔を上げる。


「城の中で暴れるな。物を壊すな。
 それに、我々はお前の敵ではない。攻撃するな。
 これさえ満足に守れないようであれば、即刻ここから叩き出してやるからそう思え。」


淡々と箇条書きのように並べられる注意事項。
2、3度まばたきし、少年はユーリの顔を見つめた。
ユーリは小さくため息をつき、めんどくさそうに少年を見つめ返す。
そして、何かを考えるように・・・白い指先を唇に当て、またすぐに離した。


口を、開く。

























「ジャック。」



























彼らしくもない、小さな・・・本当に小さな声は、
それでも、そこに居る者の耳に届くには充分な音量だった。


「え、なになに?なんて言ったのサ!ジャック?それがこのコの名前?」
「・・・ないと不便だろう。あのような数字では呼びにくい。」


わくわく、といった感じで身を乗り出すスマイルに、しごくアッサリと返事を返し、ユーリは席を立った。


「ねぇねぇそれってどんな意味?その心は?なんでジャックなの?」
「五月蝿い。
 アッシュ、それの世話はお前に任せる。」
「あ・・・は、はいっス!!」


いきなり話を振られたアッシュは、ハッと我に帰り、あわてて返事をした。
ユーリはそのままリビングを出て行ってしまい、スマイルはその後を追う。
広い居間には、少年とアッシュが取り残された。




「えー・・・っと・・・」
「・・・・・・。」



アッシュはポリポリと頭をかき、横目で少年の顔をうかがった。
ぼんやりと、少年はユーリが座っていた椅子を見つめている。


「あのー・・・よかったら、まだサンドイッチ残ってるんスよ。食べないっスか?」
「・・・・・・。」


てくてくキッチンの方へ歩きながら、言う。
少年は、黙ったままだった。
アッシュは正直どうしたらいいのか分からなくなり、その場でまた頭をかく。


「返事くらい、してほしいんスけどねぇ・・・」
「・・・だ・・・」


ため息混じりに紡がれたアッシュの言葉に、少年の声が重なる。
アッシュは口を閉じた。













「・・・初めてだ・・・『攻撃するな』・・・だなんて・・・。」













しばらくの沈黙の後、
少年はユーリの椅子を見つめたまま・・・ぽつりと、そうつぶやいた。


















































































































「・・・・・・なんで・・・」
「?」



いつもと様子が違う、小さな同居人の言葉に、ユーリはまた少し首をかしげた。






「・・・なんでユーリは、あの時・・・俺に名前を・・・。」

「ないと不便だろう。当たり前のことを聞くな。」






言い知れぬ感情をにじませ、搾り出すように言葉をつむいだジャックに、
ユーリは間髪あけず、あっさりと言い放った。


「・・・・・・。」
「気に入らなかったのか?」


あまりに簡潔に返ってきた答えに、呆気に取られるジャック。
テーブルの上に置いてある雑誌に目を落としたままのユーリに、
抑揚のない声で聞かれ、ジャックはあわてて首をふった。


「そんなこと、ない。」
「・・・。」
「そういうことじゃ、なくて・・・。」









あの時。

嬉しかった、のだ。
あの頃の自分は、「嬉しい」なんて知らなかったけれど。
感じた気持ちを言葉に表すのなら・・・「嬉しかった」。

でも、そんなたった5文字の言葉だけで表すには、
あまりに大きくて・・・あまりに切なくて。




「・・・そんな顔をするな。」




くしゃり、と頭を撫でられる。
いつのまにかうつむいていたジャックは、少し顔をあげ、
ユーリが椅子から少し身を乗り出し、自分の頭を撫でていることを知った。


「心に相応の言うべき言葉が見つからないのならば、無理に口に出すものではないぞ。
 形にできないのであれば、焦って無理につくることはない。」
「・・・・・・。」


ジャックが泣きそうな顔をしているのとは逆に、ユーリは微笑んでいた。
・・・滅多に見せない、彼の微笑み。
ジャックはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。






















胸いっぱいに溢れる、言い表せない温度。

まるで、炎のように。

寒くて暗い闇の中をゆらゆら照らす、

優しい、炎のように。




























































「未来のうてな」っていう漫画があります。
「僕の地球を守って」という作品と同じ作者なんですけど。
それに、「真名(マナ)」ってのが出てくるんですよね、設定として。
魂に刻まれた名前で、その名前を他人に知られちゃうと、
その人には絶対従わなきゃ行けない〜みたいなのが。

「Tactics」っていう漫画があります。
「魔探偵ロキ」という作品と同じ作者・・・というか、その人も描いてる?漫画なんですけど。
妖怪は、自分に名前を付けた人に従わなくちゃ行けないっていう設定があるんですよね。

名前って、すごい力を持ってるというか・・・
名付ける、っていう行為もすごい行為ですよね。
「息を吹き込む」「生まれる」「存在の証明」「繋ぎ留めるもの」・・・いや、むしろ存在そのもの?

ああ、まるで神さまみたいだ。




自分設定で、スマも「スマイル」って名前はユーリさんにもらったんだと思います。

それにしても、今回はキツかった・・・(汗)
自分でも何書いてるのか分からなくなったの部分が多々・・・
なんとかつじつま合わせましたけど・・・いや、合ってるのかなぁこれで・・・(遠い目)
展開遅くてすみません;;
のんびり頑張ります。

ご意見ご感想などありましたら、ぜひお聞かせ下さい!!
誤字脱字誤変換は、Web拍手などでコソリと・・・

ではまた次回。






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