アッシュは困っていた。










「・・・・・・(汗)」



場所はリビング。

ソファーからは、変な笑いを浮かべたスマイルが。
いつも食事をするテーブルの椅子からは、いかにも不機嫌そうなユーリが。
リビングの扉のところに立っているアッシュに、なんとも言えない視線を送っていた。



「立ち上がって、両手を頭の後ろで組め。」



頭の後ろから発せられる声に、バンドメンバーのテンションが急激に下がっていくのを感じながら、
アッシュは泣きたい気分になった。

あのあと、アッシュより先に目を覚ました少年は、どこかの部屋に飾りとして置いてあったのであろう、
小さいが鋭い短剣を、目を覚ましたアッシュに突きつけたのだ。
アッシュに手を上げさせ、自分はその肩に乗り・・・仲間のところへ連れて行け、と。
少年に言われるまま、アッシュは首に短剣を突きつけられた格好で、リビングに戻ってきたのだ。


「早くしろ。仲間がどうなってもいいのか。」


喉元に短剣を突きつけ、脅迫する少年を肩車し、引きつった笑いを浮かべているアッシュと、
だんだん不機嫌になっていくユーリを交互に見つつ、スマイルはため息をついた。


「だ、そうだけど・・・どうする?」
「知るか。アッシュ、これはお前の自己責任だ。1人でなんとかしろ。」


ユーリは手元の雑誌に目線を戻し、コーヒーをすすった。
リーダーの薄情極まりない反応と言葉に、アッシュの頬に涙が光る。


「ユーリならそう言うと思ったっス・・・」
「勝手に喋るな」
「あ、はい・・・」




「あー・・・ボクは言うこと聞くヨ。
 言うこと聞くから、アッスくんの命、保障してくんない?」




そう言って、スマイルはソファーから立ち上がり、両手を頭の後ろで組んだ。


「・・・・・・マスクはどこだ。」


立ち上がらないユーリに注意を払いつつ、少年は言う。


「マスクって・・・あのガスマスク?」


緊迫した状況の中でも、スマイルの口調はいつもと変わらない。
少年は、短く首を縦に振った。


「多分、そっちの低いテーブルの上にあると思うケド。」
「歩け。」
「あ、はい・・・」


アッシュは両手を上げ、少年を肩車した格好のまま・・・ソファーに囲まれた低いテーブルに近づく。
スマイルの言うとおり、テーブルの上には、少年が身に付けていたガスマスクとボンベ、手袋があった。


「拾って、渡せ。」
「はぁ・・・」


言われるまま、アッシュは恐る恐るテーブルの上にあるガスマスクに手を伸ばした。
アッシュが体を倒したので、上に乗っていた少年は、ぐらりと少しバランスを崩す。
首元に突きつけていた短剣が、わずかに皮膚の上から離れたのを・・・スマイルは見逃さなかった。













瞬間。












音もなく床を蹴ったスマイルは、
気配に気づいてハッ!とこちらを向いた少年の顔を、容赦なく殴りつけた。


「っ!!!」
「スマイルっ!?」


強烈な拳打をマトモに食らった少年の体は、衝撃を受け止めきれずに後方の壁へふっ飛ぶ。
一歩遅れて、アッシュが驚いた声を上げる。



「あ・・・アンタ何やってんスかっ!!!相手は子ど・・・」

「伏せてアッスくん!!!」



立ち上がって抗議するアッシュの後ろで、少年が素早くガスマスクやボンベを装着したのに気づき、
スマイルは鋭く言い放つと同時に、高くジャンプして後ろからアッシュの背中を蹴り飛ばす。
アッシュはガクンと前のめりに倒れ、それを踏み台にし、スマイルはさらに高い空中へと飛び上がった。

2人の間にひらいた空間を、緋色の炎が突き抜ける。



「・・・っ!」



床に倒れたまま、アッシュは眼を見開いた。
放たれた炎の先には、ユーリが座っているテーブルが――――。

















































「・・・ずいぶんと、躾が行き届いているようだな。」























































燃え上がる炎から、赤い翼が大きく広がる。

一瞬のうちに、火炎は勢いを失い・・・アッという間に消え去った。
腕を組み、その場にたたずむユーリの銀髪を、炎が消え去るのと同時に巻き起こった風が、小さく揺らす。
劫火と言っていいほどの炎を浴びたのにもかかわらず、
ユーリが居たテーブル、椅子、読んでいた雑誌さえ、何事もなかったかのようにそこにあった。


「・・・!!」


スマイルに殴られたあと顔色1つ変えなかった少年も、これにはさすがに驚いたようだった。
真っ直ぐ自分を見つめるユーリに、少年の左足がわずかに後ろへ下がる。
2人の様子を見ながら、アッシュがゆっくり立ち上がるのと、
ファイティングポーズをとっていた少年の両腕が、後ろへ不自然にねじ曲がったのは、ほとんど同時だった。


「・・・っ!!?」


少年は、勝手に動く自分の腕に驚く間もなく・・・次の瞬間には、正面から床に倒れてしまった。


「ヒッヒッヒッ☆
 おイタはその辺にしておくんだネ。」


少年の背後から、いつもの笑いを浮かべたスマイルが、まるであぶり出しの絵のように姿を現す。
左手で少年の両腕をひとまとめにし、床に押さえつけたまま、
右手で器用にガスマスクを引き剥がした。


「っく・・・!」


あらわになった少年の赤い眼が、スマイルに強烈にガンを飛ばす。


「おー恐。そんなににらまないでよンvv」


軽い口調で笑って見せるが、両手を拘束する力は緩まない。
呆然となるゆきを見ていたアッシュだったが、スマイルが少年をしたたかに殴りつけたのを思い出し、
あわてて2人に駆け寄った。



「だ・・・大丈夫っスか!?」

「それは・・・ボクとこのコ、どっちのこと心配してるのン?」
「この子の方に決まってるじゃないっスか!!あんなに思いっきり殴って!!」
「むぅ!なにソレ!誰のおかげで助かったと思ってんの!?ボクはアッスくんの命の恩人なのに!!」
「助けるならもうちょっと平和的に助けるっスよ!!
 実力行使なんて、どっかの国のアホ大統領っスか!?アンタは!!」
「ムッキー!!!サイアクっ!!あんなのとボクを一緒にしないでヨ!!!」


ギャーギャー騒ぐ2人の下で、なんとかスマイルの手をほどこうと、モゴモゴ動く少年。
そんな光景に、ユーリは大きなため息をついた。


「全く・・・そんな話をしている場合ではないだろうが・・・。」
「はっはっは!お前も苦労してんな。」


独り言のようにつぶやいた言葉に、横方向からカラカラと笑い声が返ってくる。





「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「よぉ。久しぶり♪」





横を向くと、サングラスと帽子を被った子供が、
ユーリの目線に合わせるように・・・ふわふわと宙に浮いていた。
にっこり笑った口からのぞく白い歯が、無駄にキラリーン!と光っている。


「・・・MZDか・・・。」
「おう。MZDだ。」


ため息まじりに名前を呼ぶと、からかうように答える神。

しばらく沈黙が続き、リビングにはアッシュとスマイルの口ゲンカが響く。
一呼吸おくと、ユーリはくるりとテーブルの方を向き・・・




















「・・・来るならもっと早く来んかこのエロZDがァァァァァァ!!!!!!!!!!」



ヴィジュアル系にあるまじきセリフと共に、MZDの後頭部に強烈な回し蹴りを見舞った。



「ぐっはァーーーーーーー!!!!!!!」



昨晩アッシュがめり込んだ壁に、今日は神がめり込んだ。
ユーリの大声と衝撃音に、言い合いをしていた2人も振り返る。









「あ・・・。」

「あーあ。」








狼男と透明人間の、口をついて出るあまり意味のない言葉。
少年は床に押さえつけられたまま、パチパチとまばたきをしながら・・・
抵抗するのも忘れて、石壁から生えた2本の足を眺めていた。








































































微妙・・・。(コラ)

えー、皆さまいかがお過ごしでしょうか?蓮根です。
エロZDは「えろぜっとでぃー」と読んでください(笑)(笑うな)

今更ながら、
自分の中でユーリさんのキャラがしっかり掴めていないことがわかったり(爆)
暴力吸血鬼・・・。理不尽とも呼べるツッコミは、
彼なりのコミュニケーション方法なんです・・・多分。
ウチのDeuilはみんな元気!活きがいい!ピチピチ!!(なんか違う気が)

ユーリ城の見取り図が欲しいな・・・
リビングのイメージはなんとなくあるんですけど。

ジャッくんが大人しくなってくれることを祈りつつ。
アッシュが持っていたおにぎりは一体どうなったのかと思いつつ。
誤字脱字などありましたらコッソリ教えてくださいませ・・・!!
ご意見&ご感想、お待ちしておりますvv

ではまた次回。




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