「・・・で?」
目を覚ます気配のない少年を、空いている客室のベッドに寝かせたあと、
アッシュから話を聞くべく、ユーリとスマイルはソファーに腰を下ろした。
チクチクと刺すようなユーリの視線と、完璧に楽しんでいるニヤニヤ顔のスマイルを前に、
アッシュはおたおたと事情を話しはじめた。
「・・・それで、匂いのするほうへ行ってみたらあのコが倒れてて、
声かけたんっスけど、気絶しちゃったみたいで・・・
ガスマスクも外れないし、よく見たら足が折れてるし、体中傷だらけで・・・放っておけなかったんスよ!」
その時の様子を、身振り手振りを加えながら熱弁するアッシュだったが、ユーリの眉はひそめられたままだ。
「・・・で?」
先ほどと同じ言葉を、全く同じ調子で繰り返され、アッシュの顔にたらーりと汗が流れる。
この場合の『で?』というのは、
『どうしてこの状況になった?』ではなく、『これからどうするつもりだ?』という意味だ。
・・・ハッキリ言って、連れてきて手当てした後のことは、これっぽっちも考えていない。
「私がなにを言いたいか・・・わかるか?」
喋りださないアッシュに、ユーリはやけに静かな声で言葉を紡いだ。
アッシュは耳を垂れ下げたまま、ユーリの顔色をうかがう。
「‘厄介ごとは御免だ’・・・っスか・・・?」
「・・・お人好しを通り過ぎた阿呆が一体いつになったら治るんだこの馬鹿犬がァァァァァァ!!!!!!」
背中に生えた自慢の赤い羽根を優雅に広げ、腕を組んで座った姿勢のまま少し浮き上がったかと思うと、
次の瞬間、アッシュのこめかみに強烈な回し蹴りが決まった。
「ゲふァ!!!!!!」
まさか、そんな理不尽な攻撃が唐突に繰り出されるとは思っても見なかったアッシュは、
哀れ、綺麗に横方向へ吹っ飛び・・・石造りの壁と熱い抱擁を交わしてしまった。
「・・・ふん。他愛もない。」
「おお・・・ユーリ、すっごいや・・・。」
ユーリの横に座っていたスマイルは、いきなりの行動に驚きつつも、その華麗な攻撃にパチパチと拍手を贈った。
そんな拍手に二コリともせず、今度はスマイルの方に向き直るユーリ。
「・・・で。」
「んん?」
『で』の意味を理解しながらも、透明人間はわざとおどけた調子で聞き返す。
吸血鬼は、本日何度目か分からないようなため息をつき、再びソファーに腰を下ろした。
優雅な仕草で足を組み、腕を組み、少しうつむいたまま・・・正面に座る青い男に、射るような視線を投げかける。
「なんだ、アレは。」
「さァねェ。ボクにはよくわかんないヨ。」
鋭い視線をゆるく受け流し、軽く肩をすくめて見せる。
「・・・この世界の者じゃない。」
「あ、やっぱ?ヒッヒッヒ☆」
「話を聞いてみんことには分からんが・・・
身体にまとわりつく気配の量と質からすると、おそらく・・・」
ユーリの言わんとしていることは、スマイルの中でも同じような答えが出ていた。
少しだけ頷いてみせると、ユーリはまたため息をつく。
この話題を避けたいとでも言うように、そらされた視線の先には、
見事にノックアウトされているアッシュの姿。
頭の上には、ハトのナナがポッポーと鳴きながら飛んでいる。
「・・・・・・全く、コイツはいつもいつも・・・厄介ごとを呼び込む天才だな。」
「ま、とりあえず様子見ようヨ。問題があればMZDとか来るだろうし。」
「・・・アイツが来たら来たで、話がややこしくなるのは目に見えてるがな・・・」
「ヒッヒッヒ☆
さァーてと!ギャンZの続き見なくちゃネvv」
さっさとソファーからTVの前に移動するスマイルの背を見送ったあと、
ユーリは本日一番大きいため息をついた。
「ホント、よく寝る子っスねぇ・・・」
次の日の朝、あれから奇跡の生還を果たしたアッシュは、少年を寝かせた部屋に来ていた。
ほかほかの朝ごはんをトレーに乗せ、様子を見に来たのだが・・・少年が目を覚ました様子はない。
「そろそろ起きてほしいんスけど・・・」
ぼりぼりと頭をかきながら、寝顔を覗き込んで小さくつぶやく。
部屋には小さな寝息が規則正しく響き、見ているアッシュまで眠くなってきそうだ。
しばらくぼんやりと突っ立っていたが、さすがにこのままではラチがあかないと思い、
アッシュは思い切って少年を起こしてみることにした。
「もしもし?朝っスよー?」
顔をこちらに向け、丸まっている少年の肩を揺すろうと
伸ばした腕が届くか届かないうちに、少年の閉じられていた眼がパチッと見開かれた。
「!」
深緑の髪の間からチラリとのぞくアッシュの紅い眼と、開かれたばかりの少年の赤い眼が合った途端。
「・・・わぷ!?」
バサッと布が空気をくるむ音がしたかと思うと、アッシュの視界は白に染まった。
一瞬おいて、それが昨日少年の体にかけたシーツだと分かる。
なんで?と思う間もなく、横方向ですさまじい闘気が弾けた。
反射的に腕でガードすると、間髪入れず強力な衝撃に見まわれる。
「・・・っく!」
予想以上の強い攻撃に、アッシュの体はカーペットの敷いてある床に叩きつけられた。
素早くシーツを取り去り体制を整えるが、
少年は・・・隙間風が寒いかと思い、閉めてあったドアに、強烈な体当たりをかましていた。
「あ、ちょっと!」
アッという間に扉は廊下の方に吹っ飛び、
転がり出た少年はリビングとは逆方向に走っていってしまった。
追いかけて廊下に出るが、一番奥の角を曲がっていく少年の銀髪がチラリと見えただけだった。
「・・・・・・。」
「スゴイ音がしたから来てみれば・・・ヒッヒッヒ!活きがイイねェ。」
いきなりのことに、少年が去ったあとの廊下を呆然と見つめているアッシュの背中に、声がかかる。
振り返ると、スマイルがいつもの笑みを浮かべて立っていた。、
「なにがあったのん?」
「えと・・・起こそうと思って、肩に手を置いたら・・・いきなり攻撃されたっス。」
「ふゥん。んで、どうするの?」
「とりあえず、探しに行くっスかねぇ・・・ユーリ城は広いっスから、放っとくと迷って餓死しちゃうっスよ。」
ポリポリと頭をかきながら、視線をスマイルから少年が走っていった方向へ移す。
「まぁそうだろうネ。頑張ってvvv」
「え!?手伝ってくれないんスか!!?」
「だって、拾ってきたのはアッスくんじゃん。ちゃんと面倒みなきゃネ☆」
「・・・相変わらず薄情っスね・・・」
軽い口調でポンポン肩を叩かれ、アッシュはため息をついた。
でも、あまりぼんやりしている時間もない。
つけているエプロンで手を拭き、
少年のために持ってきた、食事のトレーに乗っている茶碗の中のご飯を、わし掴みにする。
「んじゃ、ちょっと行ってくるっス。」
温かいご飯をにぎにぎ、キレイな三角形にしたのを持ち、アッシュは歩き出した。
「いってらっしゃ〜い!お昼すぎても帰ってこなかったら探しに行くからー!!」
「ああハイ・・・よろしく頼むっスよー。」
「・・・そういえば・・・」
アッシュを見送ったあと、リビングに向かいながら・・・スマイルはつぶやいた。
「あのコって昨日、右足折れてなかったっけ?」
うおおおおおお!!久しぶりの小説ですよ!!
よかった10月中にUPできて・・・
いやまぁ、ジャックが登場したのがポプ10だったからってだけなんですけど。
思ったより話の展開が遅いです;;終わるかな・・・(コラ)
結構痛い場面も書こうと考えておりますが、
最終的には絶対ハッピーになるので!
そこら辺は安心して、お付き合いいただけると嬉しいですvv
最初に現在のアッシュとジャックの会話がありましたが、
多分、この時点でシエルはユーリ城にいないです。あしからず。
誤字脱字などありましたらコッソリ教えてくださいませ・・・!!
ご意見&ご感想、お待ちしておりますvv
ではまた次回。
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