Butterfly or Moth?



















































「わっりぃ!今日は遊べねーんだよ!!」








穏やかな風が吹く、ある日の午後。
顔の前で両手を合わせ、サイバーは申し訳なさそうに言った。


「・・・なんでだ?」
「家庭訪問があってさー・・・」
「カテイホウモン?」


場所は、某美容院の玄関。
Deuilの仕事に付いてきて、街に出たジャックは、
あれから何回か遊ぶようになったサイバーの家に顔を出したのだ。


「家庭訪問というのは、学校の先生が家に来ることなんですよ。」
「お前、この間の英語で赤点とったもんなー。ヤベぇんじゃねーの?」
「・・・なんでリュータとハヤトがいるんだ?」
「帰れって言ってるのに聞かないんだよ・・・」


奥にあるソファーに座り、ジュースとお菓子をつまんでいる2人に、
サイバーはがっくりと肩を落とした。


「ほらほら、ジャックも上がって上がって!これ美味しいですよ?」
「サイバー、ジュース追加。」
「お前らなー・・・(怒)
さも当然のようにくつろいでんじゃねーよ!!
リュータ!ジュースは自分で取ってこい!人をパシるな!!」


ズカズカと2人の方へ歩いていくサイバーに続いて、とりあえず店の中に入る。
営業は午前中だけだったらしく、店内にいるのは学生トリオと自分だけだった。




「っていうか、おばさんたち旅行に行ってて、今家にいないだろ?どうすんだよ。」
「・・・兄ちゃんが代わりに話し聞くって。」
「良かったじゃないですか。マコさん優しいから、あまり怒られないでしょ?」
「お前らは知らないから、そんなこと言えるんだ!!
兄ちゃんは怒るとすんげぇ怖いんだぞ!!」

「・・・怒られるようなコトしたの?」

「ひゃあ!兄ちゃん!!」



店の奥から、マコトがコーヒーを片手にひょいっと顔を出した。
いきなり声をかけられて、サイバーは両手をわたわたと無意味に動かす。


「あれ、ジャックじゃん。いらっしゃい!久しぶりだね。」


にっこりと笑いかけられ、ジャックは反射的にペコ、と頭を下げた。


「兄ちゃん!こいつら出て行かないんだよ!!もう先生来ちゃうのにさ!!」


ぶーぶーと頬を膨らませて主張するサイバーに、マコトは少し考えて


「別にいいんじゃない?」


と軽く答えた。
最後の望みを絶たれ、ズーンと沈むサイバーに、
リュータとハヤトは手を叩いて喜んだ。


「・・・オレ、帰った方がいいか?」


なんとはなしに、自分の影が薄くなってるのを感じ、ぼそりと聞いてみれば、


「俺の味方はお前だけだァァァー!!ジャック!!!」


と、サイバーに泣きつかれてしまった。
おいおいと男泣きするサイバーにつかまえられて、どうしようかと目線を泳がす。
それがまた面白かったらしく、リュータとハヤトが腹を抱えて笑っているのが、サイバーの肩ごしに見えた。

と、その時。

















カローン。


「ちーっす。・・・・・・なにやってんだお前ら。」





















ドアを開けて入って来たのは、KKだった。
入ってすぐ、サイバーに抱きつかれてるジャックが目に入り、怪訝そうに訪ねる。
リュータとハヤトは、KKのあっけらかんとした口調にトドメをさされたらしく、
床の上でのたうちまわり、声が出ないほど笑っていた。


「もー!サイバー先輩おもしろすぎですよー!!」
「く・・・くる、苦しい・・・。笑い死にする・・・」


サイバーの腕から逃れようとして、もがもがと両手を動かしているジャックと、
笑いすぎて、床の上でピクピクと震えている学生2人を交互に見ながら、
どうしたものかと頭をかくKKに、マコトは笑いながら声をかけた。



「いらっしゃい、ケイさん。」
「・・・おう。
 今日はやけに人が少ないな・・・定休日か?」
「午後からだけどね。弟の家庭訪問があるんだ。」
「あーん。なるほどな。・・・んじゃ、また日をあらためて来るわ。」
「時間あるなら、コーヒー飲んでいかない?」


マコトの言葉に、軽く手を振ってドアに足を向けるKK。


「イイよ。どうせ顔みたら帰るつもりだったからな。」
「そう。」

「オレも・・・帰る・・・!」



KKのあとを追おうと、ジャックはサイバーの腕を振りほどく手に力を込める。



「大体いつもみんな俺のことからかうんだぜっ!?
 正義のヒーローをもっと大切にしようとかいう気持ちが全然ないんだよアイツらには!!」
「・・・離してくれ・・・;;」
「お前なら分かってくれるだろ!?心の友よー!!!」
「・・・KK・・・なんとかしてくれ・・・」
「それぐらい自分でなんとかしろ。じゃーな。」


ひらひらと手を振り、KKはドアノブに手をかけた。
と、その時。












ガチャ!
ごんっ!





・・・カロロン。



















ほぼ同時に外側から勢いよくドアが開かれ、綺麗に磨かれたガラスがKKの顔面を直撃した。
頭の上で、木製のドアチャイムが軽やかな音を奏でる。










「「「「「「・・・・・・・・。」」」」」」











どう対応していいのかわからず、その場に居る全員はしばらく沈黙を守った。

一瞬遅れて、外にいる人間がドアを引く。
KKがよろめきながら2、3歩下がる。
ひょこ、とドアから顔を出したのは、オレンジ色の髪に青いヘッドホンがよく映える若い男だった。




「あ、ゴメン。うへころ。」




片手を上げて軽く謝る男。


「ディ、DTO・・・。」


ジャックから手を離し、サイバーがつぶやく。
やっと開放されたジャックは、また捕まらないように距離を取る。


「お、サイバー!ちょっと早いけど、保護者の方はいらっしゃるうへか?
 って、なんでリュータとハヤトが居るんだころ・・・」
「いや、それより先生、ちゃんと謝ったほうが・・・」
「ん?ああ・・・すまんころ。大丈夫うへか?」


サイバーに言われ、DTOはKKの方に顔を向けた。
KKはと言えば、ポカーンと口をあけ、なんとも間抜けな表情でDTOを眺めている。









「お前・・・オサ・・・」

「うへ?」








軽くDTOを指し、小さな声でなにかつぶやいたかと思えば、
次の瞬間、あわててドアに向かって歩き出した。


「じ、じゃあなマコト!!また来るぜ!!」
「ちょっと待つころ。」


そそくさと店を出て行こうとするKKの腕を、DTOがガシッと掴む。
KKは帽子のツバに手をかけ、顔半分を隠すようにしながら振り返った。


「な・・・なんだ?」
「お前の顔・・・どっかで見た気がするうへ。」
「ひ、人違いだろ!スマン、急いでるんだ・・・離してくれ!!」
「ウソつけ。帽子を取ってみろ。うへころ。」


自分より背が高いKKを、下から覗き込むようにして言うDTO。
KKは、なんとかDTOの腕を外して出て行こうとするが、
場所が狭いので上手く力が込められない。
もたもたしているKKに業を煮やしたのか、DTOの手が帽子にかかる。


「わ!!やめろこのバカ!!」
「顔を見せるころー!!」
「やめろっつってんだろ!変態教師!!」
「なっ・・・!!なんてこと言うんだ子供の前で!!ころ!!」
「本当のことだろーが!いいから離せ!俺は帰るー!!」
「ええい!往生際が悪いヤツだうへ!!」







ぎゃあぎゃあと玄関先で暴れる大人2人。
学生トリオとジャックは、この状況をどうしたものかと顔を見合わせた。
サイバーがマコトに助けを求めようと振り返った瞬間、
ヒュッと風を切り、何かが顔の横を通り過ぎた。





カカッ!





KKとDTOの鼻先を、顔剃り用のカミソリがかすめ・・・すぐ横の壁に、垂直に突き刺さる。










































「お客様?店内での喧嘩や乱闘はご遠慮頂けますでしょうか?」

















































ニコニコと柔らかい笑みを浮かべながら、右手でカミソリを、左手でバリカンを弄ぶマコト。
2人は背筋が凍るのを感じ、どちらからともなく手を離した。















































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