「ぅおーいユーリ!!いるかー?」











































YOUR VOICE










































日差しはだんだんと暖かくなってきたが、風はまだ冷たい。
Deuilとして活動を始め、何度目かの冬。
今日も今日とて忙しい毎日を送る3人の元に、唐突にその話は舞い込んだ。


「第七回ポップンパーティへの招待?」


仕事にキリをつけ、スタジオの控え室にある、ちょっとボロいソファーに座ったMZDの言葉に、
アッシュは紅茶を淹れる手をとめる。


「おう。おおまかな方針は決まったからよ、今からアーティスト集めなんだわ。」
「そういえばそんな時期だったねェ。」
「・・・・・・。」


テーブルに置いてあったポテトチップスを頬張りつつ、スマイルはニコニコしながら言う。
ユーリはと言えば、先ほどから美しい眉の間に深いシワを刻み、仏頂面をMZDに向けたままだ。
本番レコーディングの最中、突然スタジオに現れたMZDが大声を出したので、
最初からやり直しになってしまったのを、まだ怒っているのだろう。


「まず、アッシュは決定な。いい曲持って来いよ。」
「はいっス!!」


アッシュにとっても、久しぶりの招待だった。
ポップンパーティは、参加したことのある者やMZDの許しがあれば、誰でも会場に入ることができる。
この場合の『招待』というのは、パーティで歌を歌うアーティストに選ばれたということ。
ポップン世界で生きる音楽家たちにとっては、大変名誉なことだ。


「スマイルはどうだ?来れそうか?」
「んんー。ボクはちょっとやめとこうかなァ。」
「どうしてっスか?せっかくのチャンスなのに・・・」
「だって、MZDはユーリも参加させるつもりなんでしょ?
 ポップンパーティは基本的に個人プレイだから、Deuilのメンバーが3人も参加しちゃったら、
 なんてゆーか・・・ちょっともったいなくない?」
「あははは!なるほどな!自分を出し惜しみか!!」
「ま、簡単に言えばそーゆーコトvv」







「・・・私はまだ参加するとは言ってないぞ。」







いつもよりやや低い声が、盛り上がってきたその場に水を打つ。


「・・・エ?そうなの?」
「考えてもみろ。前回参加したパーティは春だったからよかったものの・・・
 今からアーティストを集めるとなると、開会は一年後、来年の冬ごろだろう?」
「あーそうだな。そんぐらい。」
「今年の冬に長期休暇を取れたのは、来年の冬はライヴツアーをやる、という約束があったからだ。
 アッシュだけならともかく、私も参加というのは難しい。」
「そういえばそうだったっスねぇ・・・」


ユーリの言葉に、アッシュは困ったように頭をかきながらMZDの方を見た。


「あ、いや、参加は参加だけど、お前は来なくていいぞ。」





































「「・・・・・・は?」」












































「いや、だから来なくてもいいって。」


硬直したメンバーに、MZDはケロッとした顔でもう一度言う。


「え・・・だって、ポップンパーティはライヴ形式じゃないっスか。
 レコーディングやPVみたいに、別録りってわけには・・・」
「ちょっと待って!それってサ、もしかしてMZDがユーリの曲をカバーするって話だったりする?」


アッシュの言葉をさえぎり、ソファーから身を乗り出してスマイルが言うと同時に、
MZDの眼がグラサン越しにキラリーン!と光った。


「あったりィー!!!」


グッジョブ!とか言いながらポーズを取るMZDの後ろで、影がパパーン!とクラッカーを鳴らす。
クラッカーの紙テープが宙を舞い、頭に落ちてくるのを、ユーリはめんどくさそうに手で払った。


「・・・なぜ私の曲を?」
「このあいだの楽曲人気投票で、「Cry Out」が第一位になったろ?
 マスターズ会議の結果、それの記念でなにかやろうってコトになったんだよ。」
「わぁ!すごいじゃないっスか!!良かったっスね!ユーリ!!」


まるで自分のことのように喜ぶアッシュの声を聞きながら、ユーリは眼を細めた。
嬉しそうな顔をするどころか、さっきよりも表情に影の色を濃くしたユーリに、スマイルはチラリと視線を送る。





「断る。」





それからすぐ発せられた言葉に、MZDの眉がピクリと動く。
スマイルは心の中で小さくため息をつき、
アッシュは少し呆然としたあと、おたおたとMZDとユーリを見比べながら話しかけた。


「え、どうしてっスか?すごいことじゃないっスか!なんでそんな・・・」
「話は終わりだ。仕事に戻る。」


ソファーから立ち上がり、挨拶もせずにMZDに部屋から出て行こうとするユーリの肩を、
アッシュは少し乱暴に掴んで引き止めた。


「ちょっとユーリ!いくらなんでも失礼じゃないっスか!!」
「・・・離せ。」
「断るなら断るで、なんでそうするのか理由を説明して・・・」


鋭く、紅く燃える瞳ににらみつけられ、アッシュは息を呑んだ。
いつも少し憂いを含みつつも優しい彼の眼に、今は心が凍るような冷たい炎が宿っている。
ユーリは、肩を掴んだまま動かない狼男の手を払いのけた。








「何人たりとも、私の‘音’に介入することは許さん。」








一言そう言い残し、開け放しにしたドアから出て行ってしまったユーリを、アッシュは追えなかった。


「ユーリ・・・」


その場に立ち尽くすアッシュの肩を、スマイルがポンポンと叩く。


「スマ・・・俺、なんか悪いこと言ったっスか?」
「うーん、なんて言ったらいいのかな。ま、あんまり気にしなくていいと思うヨ。」
「っつーか、こういう展開は予想してたにもかかわらず、お前らの前で話を出した俺が悪いかな。」


1人だけソファーに残っていたMZDが、帽子のツバを指で弄びながら言った。


「予想してた・・・って・・・
 それってどういうことっスか!?」
「ま、アッシュは悪くないって話だ。とりあえず、今日のところはこれで帰るな。」
「お疲れサマ〜」
「ちょっ・・・MZD!!」


手を伸ばした先で、MZDの姿がかき消すように空気に溶けて行く。
まばたきを2回するうちに、その場所にはソファーと彼が食べたクッキーの包み紙だけが残った。


「なんなんスか一体・・・」
「ヒッヒッヒ☆」
「スマ・・・あんたなんか知ってるっスね?」
「うううん?ボクは全然なぁーんにも知らないヨ♪」
「・・・はぁ・・・」


口を割る気はないらしい透明人間に、狼男はガックリと肩を落とす。
今日の夕食はユーリの好きな和食にしようと思いつつ、アッシュは控え室を後にした。











































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