左足に衝撃。
続いて鋭い痛みがはしった。
「ッ!」
傷ついた足をかばい、コンクリートの影に身をひそめる。
暗闇の中でも、くるぶしから後ろがえぐられているのがわかった。
もう少し気付くのが遅かったら、足首から下がなくなっていたかもしれない。
「チッ!」
小さく毒づき、闇にまぎれている気配に全神経を集中する。
(・・・なんとかうまくいったみたいだな・・・。)
身を隠したらしい少年の様子を伺いながら、KKはため息をついた。
PURSUER−追う者ー ?
少し前に、ジャックとKKは小さな隠れ家を後にした。
特に作戦と呼べるものはない。
ここで戦っては、部外者を巻き込みかねないということと、
ジャックの武器が置いてあるということで、
とりあえずユーリ城に向かうことにしたのだ。
「遅かれ早かれ、Xはオレたちを見つけるだろう。」
「さっきから気になってたんだか、そのXってのはなんなんだ?コードネームなのか?」
「識別登録IDだ。
偽造品を見分けるために、目をあわせればわかるようになっている。
頭部に埋め込まれているチップが、超電子波動を発信および受信の働きをして、
大脳パルスの側面から・・・」
「あああ、わかったわかった!」
長々と説明を始めるジャックを、KKは腕を振って制止した。
「とりあえず、俺は時間稼ぎすりゃいいんだろ?」
KKの言葉に、ジャックは目を丸くする。
「・・・なんでわかったんだ?まだ何も言ってないのに。」
「この状況でそれ以外なにするって言うんだよ・・・。
殺さないように、なおかつ動きを止めるとなると・・・足か。回復にはどれくらい時間がかかるんだ?」
「オレで大体15分から20分だから、Xは10分程度で回復すると思う。」
「・・・足フッ飛ばしてもか?」
「致命傷でない限りは。」
KKは、今日何度目かもわからない、深いため息をついた。
「やっかいだな・・・。」
「傷を負わせることができてもできなくても、攻撃したらすぐ、その場から離れろ。」
キッパリと告げるジャックに、KKはむっ・・・と顔をしかめた。
「・・・俺も甘く見られたモンだなオイ。怪我の一つでも負わせないと、時間稼ぎにならないだろうが。」
「ヤツの注意をそらせればそれでいい。」
「・・・・・・お前な・・・。俺の腕と経験を、もうちょっと信用しろよなー?」
ちょっとバカにしたような言い方に、KKは不機嫌そうに言う。
「・・・・・・から」
うつむき、小さく何かをつぶやくジャック。
KKはタバコをふかしながら、あ?と、聞き返した。
「・・・頼むから・・・死なないでくれ・・・」
拳を握り、唇を噛みしめ・・・やっとのことで絞り出した一言。
KKはタバコの灰を落とし、無言でジャックの髪をワシャワシャとかきまぜた。
「誰に向かって口きいてるんだよ。俺の心配してるヒマがあったら、さっさと解決策を考えな。」
まだ不安そうな顔をしていたが、こくりとうなずくジャックに、KKもうなずきかえした。
「・・・・・・。」
おそらく、Zを逃がした人間の仕業だろう。
ほんの少し前、黒い少年はジャックの気配に気づき、追跡を開始していた。
ジャックの姿を確認し、接触しようと近づいたところ・・・攻撃された。
思えば、なんら不思議なことではない。
相手が2人いるということはわかっていた。別々に行動する可能性も高い。
普段の自分なら、こんなミスはありえないのに。
(・・・調子狂うぜ。)
いやな汗が、額を流れる。
離れているのに、目の前に銃口を突きつけられているような緊張感。
放った銃弾がヤツの足に当たるのを確認してから、3分と28秒。
攻撃したらすぐ、その場を離れろ・・・というジャックの声が、頭の中でリフレインする。
(冗談じゃねぇ。)
できるだけ、ヤツの注意を自分にひきつけておく。
時間が稼げれば稼げるほど、ジャックやDeuilが作戦を練る余裕ができるだろう。
コイツさえ、ここにとどめておけば・・・
事態はいい方へ向かうはずだ。
「・・・・・・。」
回復にかかるのは10分、少なく見積もっても、7分はかかるだろう。
KKは移動を始めた。
足の傷が完治する前に、新たな傷を負わせなくては。
ジャリ、と、ヤツが身を潜めているビルの路地にまわる。
気配は動かない。
4分と56秒。
屋上に上がろうと、ワイヤー発出機を取り出す。
「なかなか面白い物を持っているな。」
「・・・ッ!!」
銃を構え、振り返ると同時に、腹に鈍い衝撃が走った。
「がハっ・・・!!」
反射的に腕でガードし、なんとか意識が飛ぶのはまぬがれた。
が、衝撃を受け止めきれず、体は硬質なコンクリートの上に叩きつけられる。
耳に入ったのは、ジャックと同じ声。
目の端に映ったのは、ジャックと同じ顔。
違うのは・・・口元に浮かんでいる薄い笑みと、捕食者が獲物を見下すような眼差し。
初めて会ったときに感じたジャックの殺気とは、比べ物にならないほどの・・・
「自分が死ぬ」という感覚。
・・・足音が近づいてくる。
くもる視界に映った相手の足には、傷一つなかった。
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