本当に聞きたかったのは
優しいウソじゃなくて
あきらめるしかないような現実でもなくて
意味なんかなくていい
声が聞きたかったんだ
本当にそれだけなんだ
少しだけ
わがままを聞いてくれるなら
その優しい声で
僕の名前を
PURSUER−追う者ー ?
「・・・ん・・・」
額にひんやりと、冷たい感触。
重いまぶたをゆっくりと開くと、薄暗い天井が見えた。
「気が付いたか。」
声がした方向に顔をむけると、見慣れたヒゲ面がニヤリと笑みを浮かべた。
途端、今自分がおかれている状況を思い出し、
あわてて体を起こす。
が、全身に鋭い痛みが走り、ジャックは顔をしかめた。
「もう少し寝てろ。ムチャな運動して、治癒の許容量超えてるんだろ?」
何かをいじっていた手を止め、KKはジャックが横になっているベッドのそばに立った。
「ここは・・・」
「俺が使ってるアジトの一つだ。あそこっから10キロぐらい離れてるかな。街のちょうど反対側だ。
今は午後11時。あれから3時間弱たった。」
ジャックが聞きたかったことを簡潔に述べると、KKはベッドに腰をおろした。
「で?なんなんだアイツは?」
「・・・見たのか」
「いいや。変な気配だけだ。」
KKの飾らない受け答えは、ジャックを落ち着かせてくれた。
ジャックはKKから視線を外し、ゆっくりと口を開く。
「・・・そういうことか。」
一通りの事情を聞き、KKはため息をついた。
思っていたより、事態は深刻である。
「オレのせいだ。」
ジャックは手で顔を覆った。
「オレがここに逃げてこなければ、こんなことには…」
「今更そんなこと言ったって仕方ないだろ。」
ポケットからタバコを出し、火を灯す。
自分一人でどうにかできるレベルを超えている、と、KKは心の中でつぶやいた。
「・・・・・・。」
ある人物の顔が頭にチラつくが、
できる限り、そいつに助けを求めるなんてことはしたくない。
「その・・・お前を追っているヤツは、お前になにがしたいんだ?」
KKの問いに、ジャックは自分の心臓のあたりを握り締めた。
「おそらく、これが目的だと思う。」
「これ…って…」
「オレとアイツの心臓には、小型の原子爆弾が仕掛けられているんだ。」
間。
「・・・お前ってヤツは・・・!どれだけ俺を驚かせば気が済むんだよ!!」
思わず叫んでしまったKKだが、うつむいたままのジャックに毒気を抜かれ、
タバコの煙と一緒に大きなため息をつく。
「・・・まさか時限爆弾じゃないだろうな・・・」
「いや、スイッチはオレの心臓だ。心停止を確認して5秒後に爆破するように設定してある。」
「・・・規模は?」
「わからない・・・。だが、おそらく・・・
この都市を破壊するくらいの力はあると思う。」
KKはタバコを噛み締めた。
もうため息をつく気も起きない。
「オレは・・・どうすればいい?」
すがるように自分を見つめるジャックに、KKは沈黙を守った。
今のジャックに、どんな言葉が意味をなすというのだろう。
「教えてくれKK!どうすればいい!?どうすればみんなを守れるんだ!?」
ついには、KKの胸ぐらを掴んで叫ぶジャックを、KKはただ、見つめていた。
「頼むから・・・」
ズル・・・と、服を掴んでいた手が外れ、ベッドの上に座り込むジャック。
KKは小さな肩に右手を置き、左手でくわえていたタバコの灰を落とす。
「どうすればいいかは自分で考えろ。それがお前の責任だ。
ここに来なかったら、なんて逃げた考え巡らせてる場合じゃないだろ。」
KKの言葉に、唇を噛み締めるジャック。
「・・・どうしたらいいかなんて・・・オレにはわからな・・・」
「甘ったれんな」
言葉を打ち消され、ジャックは息を飲んだ。
さっきまで、うろうろと自分を見るのを避けるように、視線を泳がせていたKKが、
いきなりギロリとこちらをにらんだのだ。
「どうしたらいいかわからない、じゃなくて、わからなくてもどうにかしろ。
でなきゃ、お前はここに住む生き物からすべてを奪い、お前自身もすべてを失う。」
「・・・・・・。」
沈黙を破ったのは、ピピピ、という小さな電子音だった。
KKが、傍らに置いてあった小さな機械を取りあげる。
「・・・聞こえたか?」
『ええ。なかなかおもしろくなってきたじゃない?』
無線からもれる声は、ジャックの耳にも届いた。
どうやら女性のようである。
「何がおもしろいんだよ・・・」
『久しぶりに、本気の「掃除屋」が見れそうなんですもの。おもしろくてよ?』
「あのなぁマーチ、これは遊びじゃ・・・」
『今はエイプリルよ、KK。
一応言われたとおりにしたけど・・・本当にあんな方法でよかったの?』
「ああ。一番安全で確実な方法だ。」
『ならいいけど。それで?』
「3時間以内にまた連絡する。連絡がなかったら、その時は・・・」
『わかってるわ。またね。』
無線を切るKKを、ジャックは不安そうに見つめる。
「これで、Deuilの方に連絡は行くはずだ。あとはジャック、お前がしたいようにすればいい。」
KKの言葉に、再び視線を落とすジャック。
迷っているヒマなんてないはずなのに、考えても考えてもいい案は浮かばない。
ただ、あの黒い少年の笑みだけが、脳裏に浮かんでは消えていく。
それが示すのは・・・果てしない絶望と、どこかなつかしい孤独。
黙ったままのジャックに、KKは短くなったタバコをつま先でもみ消し、
わしゃわしゃと頭をなでてやった。
「まだ、何か手はあるはずだ。落ち込むのは早すぎるんじゃないのか。」
すぐそばにいるのに、どこか遠くのほうで聞こえるKKの声。
「・・・オレには・・・ない・・・。
戦う武器も、ヤツを退ける作戦も・・・なにも・・・」
ぼんやりつぶやくジャックに、KKはボリボリと頭をかいた。
がしっ!!と、前置きもなく、うつむいてるジャックの頭を抱え込む。
ジャックがびっくりして自分を見ているのを感じながら、KKは言った。
「・・・・・・俺がいるだろうが。」
「・・・!」
「俺がお前の武器になってやる。お前なりに、俺を使って作戦立てろ。」
淡々としゃべるKKの横顔を、ジャックはきょとんと見上げていた。
一歩遅れて、その言葉が示す意味を理解したジャックは、
ますます目をまるくしてKKを見つめた。
「ただし!今回だけだからな!!二度目は絶っっっ対ないぞ!!」
照れくさかったのだろう、KKは抱えたジャックの頭に、ぐりぐりと拳をいれる。
ジャックは痛みに顔をしかめながら、胸に熱いものが吹き上げるのを感じていた。
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