走った。


右も左もわからないまま。


心臓が悲鳴をあげ、足の筋肉がきしむように痛んだ。


それでも、体中を駆け巡っている濁流のようなものに突き動かされ、


無我夢中で走り続けた。


脳裏によぎるのは、あの黒い少年の笑み。


あの笑みが、全てを奪うのだろう。


今のジャックには、走ることしか出来なかった。






















































「どういうことっスか!?スマ!!」


燃える桜の木を、大勢の観光客が不安そうに見守る中、
ジャックの姿を探してあちこち歩き回るアッシュを、スマイルは人ごみの外へ連れ出した。


「だから、ジャッくんはもうココにはいないから探してもムダだって言ってるの!!」


アッシュの腕を引き、半分引きずるようにして歩かせる。


「そんなことわかんないじゃないっスか!離すっスよ!!」
「わかるヨ。ユーリが言ったんだ。・・・アッシュをつれて、城に帰れって。」
「そんな!!・・・そういえば、ユーリはどこっスか?」
「わかんない。どっかに飛んでっちゃった。」


ユーリが言った、という言葉に、アッシュは抵抗するのをやめた。
スマイルも、掴んでいた腕を離す。
ぎゅうっと拳を握り締め、うつむくアッシュ。
かすかにのぞく紅い瞳には、不安の色がにじんでいた。


「ジャックの身に・・・なにが・・・。」
「きっと、ユーリが手を打ってくれてるヨ。ボクらは帰って連絡を待とう。
 ジャッくんが帰ってきてるかもしれないし?」


ポンポンとアッシュの肩をたたき、明るい声で言ってみるスマイルだったが、
自分でも、説得力がある言葉だとは思えなかった。


アッシュがゆっくり顔を上げるのと、消火のかいもなく、桜の木が燃え崩れたのは、ほぼ同時だった。






































バンッ!!





すっかり日が落ちて、そろそろ晩飯の用意でもするか、と、テレビを消して立ち上がったときだった。
玄関の方でスゴイ音と、ちいさなうめき声が聞こえたのだ。


「・・・ジャック!?お前、どうしてここが・・・」


その声には聞き覚えがあった。
あわてて玄関に出たKKが見たのは、
ひん曲がったドアに手を突いて、荒々しく呼吸するジャックの姿だった。

その様子から、ただごとではないことがわかる。


「おい、大丈・・・」


口に出そうとした言葉を、KKは飲み込んだ。


(・・・なんだ・・・?)


違和感が、KKを包む。
それは今まで感じたことのない感覚だった。
ポッカリと・・・空間が欠けているような。


「・・・け・・・」


大きく息をしていたジャックの体が、バランスを失い、ぐらりと前のめりに倒れてくる。
KKは無言でそれを支え、部屋の奥へ連れて行った。














「尾けられてるのか。」




小さな声で問うKKに、ジャックはうなずいた。
体力はとっくに限界を超え、全身の筋肉が、軽い痙攣を起こしている。
しばらく自分では動けねぇな、と思いながら、KKはジャックに眼を合わせた。


「時間に余裕は?」


眉をひそめ、力なく首を振るジャック。
KKはそれ以上何も言わず、ソファーに体を預けているジャックに背を向け、
部屋の隅にあったショルダーバッグの中身を確認する。
そうこうしている間にも、あの妙な違和感がどんどん近づいてくるのを感じた。

KKはぐったりしているジャックを背負い、ベランダの手すりに足をかける。
自分以外は誰も住んでいない、ボロアパート。
握っていた小さなスイッチを押し、家の中に放り込んで、地を蹴った。













「なっ・・・!!」


少し遅れて、少年はジャックがたどりついたと思われるアパートの屋根に降り立った。
が、降り立った途端、カッ!と、鋭い光が陽の落ちた夜の闇を引き裂く。
一瞬の判断だった。









小さなアパートが、すさまじい音を立てて爆発する。









「っく・・・!」


すんでのところで爆発から身を守り、隣りのアパートの屋上に転がった。
体勢を立て直し、屋上から周りを注意深く見渡すが、ジャックの気配はない。
あれだけ消耗していて、動けるはずがない。
建物の爆発も不自然だった。




「・・・やるな。」


顔もわからないそいつに、ニヤリと笑みを投げかける。

黒い少年は、しばらく燃えるアパートを見ていたが、
痕跡は何も残らないと判断すると、その場を後にした。
































長い夜が始まる。
























































           第2話です。

なんだかKKとジャックばっかりですね!!
話の都合上仕方ないのですが・・・
Deuilの出番が少ない(泣)
ユーリさんが何かしでかしてくれることを期待しましょう。
空白が多くて、ページの長さの割に文章が少ない・・・。スミマセン;;
2Pジャックの名前はもう決まってるんですけど、
どんな名前だかわかりますかー?
ヒントは番号です。
読んでくださった方、ホントにありがとうございましたっ!!

それではまた次回。

ブラウザを閉じて戻ってくださりませ。



前へ