「悪くないんだが、どーも・・・色がね。」




   「これが、真っ赤だったらいいと思わないか?」




   「散ったあととか、絶対キレイだって。」




   「何百人殺したって、それほどキレイな赤い絨毯はできないぜ。絶対!」




   「でもまぁ・・・仕方ないか。遺伝子でそうなってるわけだし?」




   「あー見てェな!これが赤くなったトコ!!」





































   「なんとか言えよ、裏切り者」



















































                                                  PURSUER−追う者ー















































「春と言えばッ!?」




冬の寒さもだんだんと緩みはじめ、
ユーリ城は穏やかな春の風に包まれていた。

手袋を外し、包帯で包まれている指をつきつけられ、少年はぽかんと透明人間を見る。


「春と言えば・・・?」


連想するものが浮かばず、同じ言葉を繰り返してしまう。
そんなジャックに、ンもうー!とため息をつき、スマイルは質問の相手を変えてみた。


「アッシュー!春と言えばー?!」
「そうっスねー・・・」


今夜の夕食はハッシュドビーフ。
肉を下茹でしている鍋をゆっくりかきまぜながら、首をかしげる狼男。


「新しく開店するスーパーの安売りが楽しみっスねぇ・・・」
「主婦だねェ・・・
 って、そうじゃなくてー!!んもー違うヨーー!!」


じたじたと床を踏み、首を振るスマイル。


「ユーリ!ユーリはー?」

「どうせギャンブラーなんとかの特番でもやるんだろう。」


眼鏡をかけ、コーヒー片手に新聞を読む吸血鬼は、まるでどこかの父親のようだ。
ソレもあるけどー!ソレじゃないんだよー!
ブーブーと文句を言いながら、ダダをこねる子供のように
ユーリの袖をひっぱるスマイル。

と、その時。



「あ、わかったっスよ!春と言えば4月、4月と言えば・・・」
「そうそう!!4月と言えば!!」

「エイプリルフールがあるっス!!」














ずーん。













「あれ、違ったっスか?」


床にヒザと手の平をつき、落ち込みポーズをとるスマに、
アッシュは首をかしげる。


「てめェらなってないヨッ!!!!」


半泣き状態でアッシュの真似をするスマイルだったが
振り上げた腕で、読んでいた新聞を弾き飛ばしてしまい・・・
ユーリの裏拳をマトモにくらった。


「まったく・・・春だからなんだというのだ。騒々しい・・・」


床と抱き合うスマイルを一瞥し、イライラと新聞をたたみ直すユーリ。
一部始終をぽかーんと見ていたジャックは、倒れたスマイルの指が微妙に動いていることに気づき、
そばへ行ってしゃがみこんだ。





『  お  は な    み  』






「ダイイングメッセージが『お花見』なんて、スマらしいっスね・・・」
「そうだな」
「オハナミ・・・ってなんだ?」
「桜を見に行くんス。」
「サクラ・・・?」

「明日も休みだし・・・行ってみるっスか?あ、ユーリもオフだったっスよね?」
「・・・酒を用意しておけ。」
「了解っス!」
「オハナミ・・・サクラ・・・」





明日に思いをめぐらせる少年。

何事もなかったようにコーヒーカップをかたむける吸血鬼。

鍋が吹いてるのに気づき、あわてて火を止める狼男。

もはや誰の目にも映っていない透明人間。


















誰にとっても春の定番行事であるお花見が、とんでもない嵐の始まりになることなど、
この時点では知るはずもなかった。


















































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