弐寺編
大人になったジャックが弐寺世界に行く話。
日記や弐寺コーナーの漫画は、この物語のワンシーンを切り取って描いてます。
設定やらキャラの性格は全てオリジナルです。
公式に決まっているものではないのでご注意下さい。

あれから何年か月日がたち、
ジャックは、変わらずの人気を誇るDeuilの元で、
通信教育で勉強したり、音楽活動したり、たまに危険な目にあったりしながらも
時折控え目な優しい笑みを浮かべる好青年に成長。
ただ、自分はここで生きていていいんだと分かった日から、
心のどこかで抱えていた「人を殺した」という事実とそれに対する思いは、
彼が成長するとともに、彼の心に重くのしかかってきていた。
ある時は励まされ、またある時は突き放された。
いろいろな人に会ったり話を聞いたりしながら、悩み続けるジャックに
六は、ここではない違う世界に行った時の話を聞かせる。
同時に、1年に数ヶ月MZDの家に滞在するエイリが、
その世界と今いる世界を行き来していることを知る。
「次元を渡る方法があるなら、元居た世界にも行けるかもしれない」
ジャックはまた自問を始める。
自分の罪は、償っても償いきれるものではない。
だが、自分は生きている。
なにか行動することはできるはずだ。
自分が今此処に生きているのは、何のためなのだ?
たくさんの人は自分に殺されたというのに、
なぜ自分は生きているのだろう。
なんのために。
どうすればいい?
考え抜いた末、ジャックは自分の居た世界に行きたいと告げる。
贖罪と自分自身のために、今だ苦しみの中にある世界をなんとかして救いたいと。
決死の思いでの告白だったが、MZDの答えは、「NO」だった。
「それはお前の持てる力の範囲を、大きく越えたものだ」と。
それからジャックは何度もMZDを説得するが、
彼の首が縦に振られることはなかった。
しかし、ある朝「カレー」と名乗る人物が、
話をしているMZDとジャックの前に現れる。
カレー、そしてパソコンからの音声「エレクトロ」が、
「こちらの世界のカルマのバランスを保つために、助っ人をよこしてくれないか」
と、MZDに持ちかける。
カレーの目配せに、MZDの目が小さく見開かれる。
ジャックはチャンスだと思ったが、MZDは少し考えさせてくれ、と答えた。
一週間後。
MZDは、試練に耐えることができたら次元を越える力を与える、と、ジャックに告げた。
ジャックは是非もなく試練を受ける意思を示し、
MZDの作り出した何もない空間に案内される。



炎はどんなことをしても消えず、手首から下を焼き尽くすが、
MZDがもう一度指を鳴らすと、手は何事もなかったかのように元に戻った。
「その炎を、自分の意思でコントロールできるようになること」
それが試練の内容だった。
右腕に炎が灯され、焼け崩れたら復元し、そしてまた燃やされるという
気が狂いそうなMZDの試練は、容赦なく続けられる。
回数を重ねるごとに、炎が焼き尽くす面積は広くなっていった。
腕一本焼ける間にクリアできないようであれば、あきらめろ。
MZDの言葉と瞳は、まるで別人のように、冷たくジャックを捕らえていた。


炎は肩口にまで這い上ってきていた。
ジャックは、すさまじい痛みとMZDの言葉によって激しく動揺している精神の狭間で、
自分に親しくしてくれた人々の顔や言葉を思い出す。
自分の罪の冷たさと、自分に微笑んでくれた人たちの暖かさ。
・・・逃げたくない。
どちらからも、逃げたくない。
――――もう、逃げない。
そう心の中で叫び、MZDをにらみつけた途端。
炭になりかけていた腕を、炎がぐるりと包み込む。
まるで失われた肉を、炎が補うかのように。
それを見たMZDは、少しだけ目を細めると・・・
その肩口に、そろえた指で十字の線と「極」の字を書き付けた。